食卓の地図
執政官メルドの家では、夕食の後に妻サラが地図を広げていた。城下の学校の子供たちに、川と山の位置を教えるためだ。メルドは黙って見ていたが、東の砦のあたりに小さな印を見つけた。
「そこまで教えるのか」
「村の子が砦へ薬を運ぶことだってあるでしょう」
サラは答えた。地図は軍人だけのものではない。井戸のある場所、洪水のときに高台へ逃げる道、橋を渡れる季節を知るためにも必要だった。
メルドは筆を借り、北の橋が崩れた位置を記した。学校に通う子供の中には、そこを通って祖父母に会いに行く者がいる。早めに知らせた方がよい。
サラは城の境界を赤い線で引いた。そこから先へ子供たちが行こうとしても、魔族なら足が止まる。だが危険がないとは限らない。境界の内側にも川があり、崖がある。
「勇者のことも教える?」
メルドはしばらく考えた。
「何を知っていて、何を知らないかは分けて話してくれ」
三度死んだ人間が戻ったという話を、子供たちがどう受け止めるか分からない。それでも噂が先に広まれば、もっと怖い形になるだろう。
サラは子供たちに、地図の記号を自分で考えさせた。井戸は丸、危ない崖は三角、友達の家は四角。それぞれ違う印を書いたが、友達同士なら理解できた。メルドはその地図を見て、軍の地図より細かい場所もあると驚いた。大人が必要としない裏道でも、子供には毎日通う道なのだ。サラは、それが暮らしの地図というものだと笑った。
翌朝、サラは地図を学校へ持っていった。崩れた橋の印を指すと、子供たちは自分の知っている回り道を次々に話し始めた。その声に、まだ閉ざされていない道がいくつも残っていた。




