杭を打つ音
北の橋を直すため、人間の大工三人が宿場へやって来た。資材の半分は南の市場から送られてきた魔族の板材だった。人間の商人が荷を運び、橋の手前で大工に渡した。
大工頭のブラムは板を叩いて質を調べた。乾燥の仕方が丁寧で、古い橋の補修には十分使える。彼は板の端に職人の印を見つけ、同業者が良い仕事をしたと嬉しくなった。
だが、橋の下の土は思ったより崩れていた。杭を打つと水が濁り、一本目が傾いた。ブラムは無理に進めず、上流に仮の流れを作らせた。
「今日中には直りませんよ」
商人が残念そうに言った。
「今日中に落ちない橋を作る方が大事だ」
作業の途中、人間の少年が水を届けに来た。彼は剣を背負った四人組がこの前の夜、壊れた橋のそばで休んでいたと教えた。四人は大工が来ると聞いて安心していたらしい。
ブラムはその話を聞いても手を止めなかった。旅人が橋を渡れる日を待つことと、工事を急ぐことは違う。半端な仕事で事故を起こせば、通った人の名すら分からなくなる。
村の女たちは工事に出る大工へ温かい汁を差し入れた。大工頭ブラムは礼を言い、塩を少しだけ足してもらった。冷たい川へ長く入ると、昼食まで体が持たない。人間の村から来た者も、魔族の市場で買った木材を運ぶ者も、同じ鍋を囲んだ。橋が完成しても全員の名は残らないだろう。それでも一人ずつの仕事が杭を立てていた。
工事を見に来た宿場の老人は、杭の打ち方を見て昔の職人を思い出した。槌の音は変わらないと呟いた。
夕方、杭は三本だけ立った。まだ橋とは呼べないが、川の流れに耐える土台ができた。ブラムは濡れた手を拭き、翌朝の仕事を皆に伝えた。




