古い井戸の底
北の宿場の井戸は、地下水路とつながっていた。人間の羊毛商人オードは井戸へ桶を下ろし、以前より水が冷たくなっていると気づいた。宿場の老人も頷いた。若い頃は冬でも湯気が上がっていたという。
井戸の縁には、四人組が残したらしい紐の跡があった。深いところへ何かを下ろして測ったようだ。石を引き上げた傷ではなく、桶を何度も往復させた擦れ方だった。
老人は宿場を去った後、年に一度だけこの井戸を掃除している。誰も住んでいない場所でも、通りかかった旅人が水を飲めるようにしておきたいからだ。
オードはその理由を聞き、持参した縄を貸した。二人で底の泥を引き上げると、古い木札が一枚出てきた。水位を記すための札で、失われた冬の印が残っている。
「昔はもっと深かった」
老人は木札を確かめた。水が減った理由が石なのか、水路の崩れなのかは分からない。それでも井戸を塞がずにいたから、違いに気づけた。
オードは調査の手紙に、温度と水位の数字を加えた。勇者らしき者がここで何をしたかについては、見たことだけを書いた。
夕方、四人の旅人の足跡を辿るのは諦めた。さらに北へ行けば、宿場から戻る道が遠くなる。商人には商いがあり、老人には家がある。
水位の古い印を見つけた老人は、子供の頃に井戸の底へ石を落として叱られたと話した。井戸番だった母は、水に落ちた小石一つでも積もれば桶の邪魔になると言った。オードは泥の中から小さな石を拾い、老人へ渡した。昔の石と同じものかは分からないが、二人はしばらく笑った。空になりかけた宿場に、人の声が久しぶりに響いた。
二人は井戸の蓋を閉め、赤い布を結んだ。旅人が来たとき、水のある場所を見落とさないようにするためだった。




