帰らぬ鳩
東の砦では、城へ送った鳩が一羽戻らなかった。鳩番の少年テオは空の止まり木を見上げ、餌を替えた。鳩は時々、鷹に追われて道を逸れる。すぐに敵の仕業と決めつける者は少ない。
隊長レシュは予備の鳩を使い、北の橋が壊れた件を知らせた。書状には、人間の商人から受け取った道の情報も添えた。戻らなかった鳩には、東の石窟に関する報告を持たせていた。
テオは心配で仕事が手につかなかった。父の代から育てた鳩のうち、その一羽は最も遠くまで飛べる賢い鳥だった。餌をやるときだけ、肩に乗って耳をつつく癖があった。
夕刻、城から別の鳩が帰って来た。羽に雨を含ませ、いつもより遅い。書状には、魔王が冬の備えを優先するよう命じたとあった。調査の兵をむやみに増やさず、村の避難路だけ確かめるという。
レシュは地図へ線を引き、古い橋の位置を直した。新兵には逃げ道を覚えさせた。守りきれないものを守れると言ってしまわないためだった。
翌朝、行方不明の鳩が戻った。脚に書状はなく、羽には細い枝が絡まっている。どこかの木へ引っかかったのだろう。テオは両手で抱え、傷を調べた。
戻ってきた鳩の羽の間から、テオは小さな青い花弁を一枚見つけた。砦の近くでは咲かない花だ。どこへ飛んだのか気になったが、確かめようがない。テオは花弁を乾かし、鳩小屋の帳面に挟んだ。鳩にとってはただの風と木立の記憶だろう。少年にとっては、見えない道が外へ続いている証のように思えた。
鳩は餌を食べると、いつものように少年の耳をつついた。テオは笑いながら、そのくちばしをそっと離した。報告は届かなかったが、生きて戻ったことをまず喜んだ。




