霧の市場
南の市場には朝霧が降り、店の看板が半分隠れていた。魚売りのリナは濡れた板を拭き、干し魚を手早く並べる。霧の日は客の出足が遅い。だが昼を過ぎれば突然混み始めることも知っていた。
人間の商人が店先に立ち、干し魚を一束買った。彼は北の橋が沈んだ噂を聞いていた。遠回りをすると市場へ着くまで二日余計にかかるという。
「橋を直す人はいないの?」
リナが尋ねると、商人は首を振った。宿場は人が減り、どちらの国も費用を出したがらない。通る者が少ないから直さない。直さないから人が通らない。
午後、守備隊長グラドが市場を通った。リナは橋の話をした。グラドは地図を広げ、崩れた場所が境界の外にあることを確認した。自分の兵を派遣したくても、橋まで届かない。
リナは魚を包む手を止めた。
「それなら、こっちの板を売っても意味がないのね」
「材料は運べる。向こうで組み立てる者がいればな」
その言葉を聞いて、商人は故郷の大工へ伝えてみると申し出た。危険な道を放置するより、両側で少しずつ費用を出す方が安いという。
リナの店では、売れ残った魚を塩漬けにして冬へ回していた。橋の修理に板を出せば、今度は乾燥棚を作る木が足りなくなる。彼女は大工から余った端材を買い、棚の脚に使うことを考えた。魚の数と同じくらい、釘の数も数えなければならない。商人が運んできた話は遠い橋のことだったが、その影響は小さな店の帳面にも静かに現れていた。
霧が晴れるころ、魚はほとんど売れた。リナは最後の一束を商人の荷へ添えた。橋が直ったら、またこの市場へ寄ってほしかった。誰の土地の橋かより、舟も荷車も通れることが大事だった。




