空の鉄箱
石切場から運ばれた鉄箱は、城の中庭に置かれた。古い封印には水路職人の印があり、箱の底には灰色の粉が薄く残っている。ギズは粉を小瓶へ集め、指先で触れてみた。熱を蓄える石が砕けた跡に似ていた。
書記官イセラは箱の寸法を測った。長さは腕二本分、深さは膝ほど。大きな鉱石を一つ入れるには十分だが、細かい道具を幾つも入れるには仕切りがない。底の傷から、重い物を何度も出し入れしたことが分かる。
「運んだ跡は?」
ギズが尋ねると、兵は首を振った。雨で地面が流れ、古い車輪の跡も新しい靴跡も混じっている。
城の武器庫ではこの鉱石を使わない。暖房の炉や地下の湯を保つためのものだ。持ち出したとしても、剣を強くするようなものではないらしい。
しかし調べに来た老職人は、石が水路の奥に据えられると周囲の地面が暖まり、冬の凍結を防げると説明した。失われれば村の井戸にも影響が出るかもしれない。
イセラは鉱石を探す命令を急がなかった。先に井戸の温度を測り、石が本当に必要な場所を特定するよう頼んだ。空の箱だけでは、誰が持ち去ったのかも分からない。
倉庫番は空の箱へ布をかける前に、底の小さな穴を見つけた。錆で空いた穴だが、そこから粉が少しずつこぼれていたらしい。ギズは粉の落ちる道を想像し、箱が最近まで動かされていた可能性を書き添えた。兵は箱を盗まれた品と呼びたがったが、イセラはまだそう記さなかった。持ち主も使い道も分からぬものを、急いで罪の証拠にしたくなかった。
夕方、兵が箱を倉庫へ運んだ。箱は空でも重く、二人がかりでようやく持ち上がった。運び終えると、二人は息を整えてから夕食へ向かった。




