湖底の鍵
北の湖には、底まで透き通って見える場所がある。湖守のルグは船底から水面を覗き、沈んだ石柱の数を数えた。三本、四本、五本。昔は六本あったが、一つは崩れて泥に埋もれたという。
漁師の少年が湖に落とした鍵を探しに来た。小屋の戸を閉めるための小さな鍵だ。ルグは長い鉤を使って水底を探り、錆びた輪を引き上げた。鍵は輪についた紐の先に絡まっていた。
「どうして湖の中へ入らないの」
少年は尋ねた。ルグは舟のへりを指で叩いた。
「ここから先へ潜ると、身体が止まるんだよ」
湖の深さに境界があった。水面を渡ることはできるが、ある深さから下へは行けない。昔の湖守たちは理由を調べ、縄に重りをつけ、魚の泳ぎを観察した。結局、自分たちだけが潜れないことが分かった。
鍵を返すと、少年は古い石柱について尋ねた。ルグは湖の向こうにある町を指した。人間の職人が石を刻み、長い橋を架けるために建てたものらしい。
その橋は完成しなかった。魔族の領域に向かって伸びる橋を、人間の王が恐れたからだという。
少年は鍵を受け取ると、湖の深い場所に魚がいるかと尋ねた。ルグは答える代わりに、舟の底を叩いた。しばらくすると銀色の魚が一匹、船影から泳ぎ出した。魚は境界など知らず、光の届かない深さへ消えてゆく。ルグは昔、それを見て悔しく思った日もあった。今は湖へ残せる舟があり、魚を守る仕事がある。潜れないことと、湖を知らないことは同じではなかった。
夜、ルグは舟を岸へ戻した。水底に残る石柱は、誰かのやりかけの仕事を静かに伝えている。完成しなかった橋も、湖の魚には住みかになっていた。




