塩の荷車
南の街道を行く塩の荷車が、境界の杭で止められた。止めたのは魔族の兵ではなく、御者自身だった。前輪の軸が抜けかけており、これ以上走ると横転すると分かったのだ。
守備隊長グラドは軸を見て、修理には半日必要だと告げた。御者は困った顔をした。塩は市場へ運ばれるまで一日遅れるごとに値が下がる契約だった。
「荷をここへ下ろし、別の車を借りればいい」
グラドは言ったが、御者は首を振った。人間の商会は魔族から荷を受け取ったことを嫌がるかもしれないという。二人は黙った。南の詰所では荷のやり取りが日常になっているが、街道の向こうではそうでない土地もある。
結局、詰所の鍛冶師が軸を直すことになった。御者は代金を払うと申し出た。グラドは今回は受け取った。仕事をする者の腕を、善意の名で安く使いたくなかった。
待っているあいだ、御者は東の森の噂を語った。剣を持つ男が魔獣を倒し、村を救ったという話だった。村の名前は知らず、本人の顔も見ていない。
「それは良いことではないか」
新兵が言うと、グラドは頷いた。
「救われた村があるなら、良いことだ」
修理のあいだ、御者は詰所の裏庭で馬に水をやった。馬は長旅で肩を痛めており、グラドは近くの獣医を呼んだ。獣医は人間の馬にも慣れていて、背負う荷の片寄りを直せば歩きやすくなると教えた。御者は恥ずかしそうに頭を下げた。塩の納期ばかり気にして、馬の足取りを見ていなかったのだ。夕方、荷を積み直すと馬は静かに鼻を鳴らした。
御者は修理を終えて出発した。兵たちの持ち場は変わらない。境界の先へ行けない彼らは、荷車が曲がり角の向こうへ消えるまで見送った。




