ゆっくり冷える水
地下水路の修理を担う職人ギズは、冷たい水へ足を入れると眉をひそめた。昔は石切場へ通じる枝道にも湯気が上がったという。今は底に薄い氷が張り、壁の苔が白くなっている。
同行した兵は、勇者が熱を蓄える石を持ち去ったのではないかと尋ねた。ギズは道具箱を下ろして答えた。
「分からん。石がなくても水路は老いる。何でも一人のせいにすると、壊れた場所を見落とす」
水路の天井には小さな裂け目があり、そこから冷たい地下水が流れ込んでいた。裂け目は古く、長い年月をかけて広がったようだった。ギズは木の楔を打ち、漏れを一時的に止めた。
石切場へ続く分岐には、魔族が進めない境界がある。人間の職人なら越えられるが、ギズの足はいつものように止まった。境界の向こうにも修理が必要な壁が見える。手を伸ばせるほど近く、それでも届かない。
兵は槍を置き、楔を削るのを手伝った。職人は作業が終わるまで兵の階級を尋ねなかった。水路の中では、板を支える腕が一本多いことの方が大切だった。
夜には水の流れが少し戻った。城の温室へ届く水もわずかに温かくなったという。ギズはその報告を聞いて笑ったが、古い裂け目がすべて塞がったとは言わなかった。
ギズは兵に、古い水路の亀裂を定期的に測る方法を教えた。薄い木札へ印をつけて壁に固定すれば、次に来たとき裂け目が広がったか分かる。専門の道具がなくてもできる工夫だった。兵は槍を扱う手で木札を押さえ、ぎこちなく印を刻んだ。ギズは笑わずに待った。水路を使う者が水路を見守れれば、職人が来る前に危険を知らせられる。
水はゆっくり冷える。石も、壁も、暮らしも同じだと彼は考えていた。




