封印の台帳
城の古文書庫は、雨の日になると紙の匂いが強くなる。書記官イセラは石切場から届いた封印の写しを持ち、奥の棚を調べた。封印は今の王朝のものではなく、城を建てた職人たちの印に近かった。
老司書のフムは印を見て、地下の水路図を取り出した。かつて石切場で採れた石を、地下の運搬路から城まで運んでいたという。鉄箱には作業道具や危険な鉱石を入れ、通路が閉じられると封印を施した。
「何が入っていたかは?」
「箱ごとに違う。目録は別の棚だ」
二人は長机へ資料を運んだ。目録には箱の数が書かれていたが、石切場の箱だけ欄外に移されている。文字は水に濡れて判読しづらい。
フムは指先に薄い油を塗り、裏面から紙を照らした。透けて見えたのは、三つの文字だった。『熱を蓄える石』。城の冬の暖房に使った鉱石で、持ち出すと周囲の水路が急に冷える危険がある。
イセラは東の石窟で地熱が弱まった話を思い出した。もし鉱石が運び出されたなら、古い地下道の温度が変わっているかもしれない。
夕方、フムは読み終えた目録を棚へ戻した。失われた石を探すより、まず石がなくなった場所を調べるべきだと助言した。
フムは古い目録の脇に、職人の給金を書いた小紙片を見つけた。鉱石を運んだ者は特別な英雄ではなく、日雇いの石工たちだった。紙片には昼食代まで計上されている。イセラはその数字を読み、地下水路が大きな術だけで動いていたわけではないと感じた。石を削り、荷車を押し、温度を確かめた人々の仕事が城の下に残っている。
イセラは新たな調査依頼を書いた。宛先は兵だけではない。水路を直す職人にも、同じ文面を送った。




