温室の種
城の温室に新しい種が届いた。北門を通った商人が持ち込んだ、紫の花を咲かせる草の種である。庭師トゥナは試しに四鉢へまき、二鉢だけ土を変えた。どの土が合うか確かめるには、数週間待つ必要がある。
助手の少年はすぐ花を見たがった。トゥナは空の鉢を指した。
「早く咲かせる魔法を知っているかい」
「知らない」
「私も知らない。それでも春は来るよ」
魔族の持つ力は、生まれたときから大きく変わらない。トゥナは幼い頃に風をそっと寄せる術を使えたが、何十年経っても寄せられるのは一房の葉が揺れるほどだった。それで十分役に立つ仕事を見つけた。
昼、魔王から礼状が届いた。先日贈った温室の果実が美味しかったという。トゥナは礼状を木箱にしまった。魔王を温室へ招けないことは皆知っている。招待状を出したことを誰も咎めないのも、城の古い習慣だった。
午後には兵が訪れ、急いで育つ食用草はないかと尋ねた。東の砦へ追加の兵を送れば、そのぶん畑仕事をする手が減る。トゥナは成長の早い草を教えたが、それでも種から食卓までは月日が要る。
「どんなに急いでも、根は今日のうちには伸びません」
兵は恐縮して頭を下げた。庭師は怒っていない。ただ、土の中の時間は命令では変えられなかった。
トゥナは兵に乾いた種を少し分け、育てる場所の温度も紙に書いた。砦の土は硬く、温室ほど暖かくない。どれだけ元気な種でも同じようには育たないだろう。兵が礼を述べたあと、助手の少年は一鉢だけ自分で管理したいと申し出た。トゥナは許したが、水をやり忘れても代わりにはしないと約束させた。世話を引き受けるとはそういうことだからだ。
夕刻、助手の少年は四つの鉢へ同じ量の水をやった。明日も水をやる。花が咲くときに、どの鉢が何を教えてくれるのかを楽しみにしていた。




