石窟の古銭
石窟の入口で見つかった古銭は、魔族の貨幣ではなかった。苔のついた円盤には、山と三本の剣が刻まれている。斥候ネインは布で包み、城の記録庫に送った。四人組が落としたものか、もっと前からそこにあったのかは分からない。
記録庫のイセラは銭を光に透かした。古い交易台帳に、北方の王国が同じ図柄を使った時期がある。人間の王国同士も争っていた頃の品で、二十年以上前には鋳造が止まっていた。
「古いものを持って歩く旅人もいるでしょう」
助手が言った。イセラは頷いた。古銭だけでは勇者の目的は分からない。石窟には、魔族が使わなくなった古い水道もある。地下へ入るための鍵を探している可能性もあった。
城の職人は銭の縁を調べ、最近まで革袋に入れられていた擦れを見つけた。埋もれていたのではないらしい。
午後、石窟の奥に通じる古い地図が見つかった。かつて地下の湯が湧き、冬の集落を暖めていた場所だ。今は冷えているが、湯の配管を修理すれば使えるかもしれない。
イセラは地図の複写を二枚作った。一枚は護衛長へ、一枚は水道の担当者へ送る。勇者のことを調べるためにも、まず石窟を知っている者の知識が必要だった。
古銭の重さを量った職人は、縁を削ると銀色がのぞくことに気づいた。表面に別の金属を被せた偽物ではなく、長く流通して摩耗した貨幣だという。助手は北の王国に住む従兄へ問い合わせてみたいと言った。イセラは返書まで何日かかるか尋ねた。道が遠く、冬の前に答えが届くとは限らない。それでも手紙は書いた。分からないものを分からないまま放置したくなかった。
その夜、古銭は黒布の上に置かれた。銭そのものに恐ろしさはない。ただ、それを運んだ者たちが今どこにいるのか、城では誰も知らなかった。




