小さな灯
東の砦で夜番をする少女兵ユリは、烽火台の下に小さな灯を置いた。父から譲られた油皿で、火をつけると緑がかった煙が上がる。戦を知らせる炎ではなく、夜道を歩く村人に砦の場所を教えるための灯だった。
同僚の兵は、灯の油がもったいないと言った。ユリは瓶の底を見せた。村の搾油屋が毎週少しずつ分けてくれる油で、軍の備蓄とは別にしてある。
「使わなければ、あの人がくれた意味がないでしょう」
夜の畑に、人影が一つ動いた。ユリが槍を構えると、影は両手を上げた。赤子を背負った村の若い母親だった。夫が山仕事から戻らず、砦に尋ねに来たという。
隊長レシュは火を貸し、名簿を調べた。山仕事の隊には昨夜から霧がかかり、日暮れ前に引き返せなかった者がいる。負傷の報せはない。だが母親は「ない」という言葉だけでは安心できないようだった。
ユリは赤子に湯を飲ませるため、小鍋を火にかけた。母親が眠るまで砦にいてよいと伝える。灯に誘われて来たのは、敵ではなかった。
深夜、南の見張りが交代に来た。東の石窟で四人組の火が見つかったと聞き、ユリは最初に母親の顔を見た。ようやく眠ったところだった。
レシュは報告を聞くと、兵二人だけを偵察へ向かわせた。烽火はまだ上げない。帰らない木こりも、石窟の火も、同じ夜の出来事ではあるが、結びつける証拠がない。
母親を休ませるあいだ、ユリは布を乾かした。薪を節約するため火を小さくすると、赤子が泣いた。兵の一人が苦い顔をしたが、レシュは静かに見守った。砦にいる者は戦える者だけではない。守るべき者が門を叩いたなら、そこが今夜の居場所になる。ユリは子守歌を知らず、かわりに砦の点呼を小さく歌った。
明け方、母親の夫が泥だらけで戻った。緑がかった煙を遠くから見つけたのだという。ユリは灯を消し、空の油皿を布で拭いた。




