王の食卓
夕食の支度を運ぶ召使が、謁見の間に温かい豆の皿を置いた。魔王ヴァルゼンは執務を終えておらず、机の端には北橋の修理費と東の警備記録が積まれている。料理は冷め始めていた。
庭師トゥナが温室の香草を届けに来て、皿へ一枚落とした。王は礼を言い、今夜の分だけ仕事を中断した。使われるはずだった飾り油は診療所へ回してある。燭台の灯は一つで足りた。
ヴァルゼンは召使から城下の夕市の話を聞いた。干し魚がよく売れたこと、学校の子が描いた井戸の印が道端に貼られたこと。玉座から動けぬ王にとって、それらは見ていない土地の温度だった。
食事の最後、王は豆を少し残した。翌朝に回すためだった。城の食糧が尽きたわけではないが、満たされた皿が当然でないことを彼はよく知っていた。
召使は温かい豆を運ぶとき、器を毛布で包んでいた。謁見の間は広く、王へ届けるまでに料理が冷めやすい。厨房では器を温める工夫が始まっている。華美な食卓でなくても、食べる者が温かいと思えることは大切だった。
ヴァルゼンは今日の食事が西の畑の豆から作られたと知った。あの村は雨不足で収穫を心配していたはずだ。メルドへ届ける食糧の数量を確かめるよう伝え、自分の皿が満ちたことを王国全体の豊かさと取り違えなかった。召使は豆の皿を下げ、余りを翌朝のスープに使うと答えた。
王は食器を下げに来た召使へ、城下の市で今朝いちばん賑わった店を尋ねた。魚屋の軒先に行列ができたと聞き、雨が長かった日に客が戻ったのだろうと考えた。見えない街を想像することはできるが、想像だけで税の額を変えてはならない。ヴァルゼンは翌朝、市場の売上を別に調べさせた。




