折れた封蝋
書記官イセラは東へ送る指示書の封蝋が割れているのを見つけた。外から開かれたような傷はない。運搬の途中で箱の角へ当たったらしく、紙の端に擦れた跡が残っていた。
護衛長ダルムは不審な者の手を疑ったが、イセラはまず箱の底を確かめた。木の欠片が突き出している。封が割れた理由はそれで説明できた。彼女は運び手を責めず、箱の修理を求めた。
中身は東砦へ送る冬靴の追加注文だった。兵にも村の医者にも必要な数を数えてあり、隠すべき軍事情報ではない。それでも封が破れれば受け取る側は不安になる。
新しい封蝋はイセラ自身が押した。押印が乾く間、ダルムは古い箱の角を削った。疑いを一つ減らすには、まず手に触れる木を直すことから始められた。
古い箱の蓋には番号が残っていたが、修理した職人の名は書かれていなかった。イセラは誰が直したかを追えるよう新しい札を付けた。箱を使う者が責められぬためにも、故障した場所が分かることが必要だった。
冬靴の注文は兵だけでなく、薬を運ぶ伝令の分も含んでいる。エナは足型を測りに来た者の中で、片足だけ大きく腫れている老人を見つけた。医官に相談させると、歩き方に無理があったと分かった。封蝋の一つを直す仕事から、誰かの足を休ませる話へつながった。ダルムは黙って注文書の数を一足増やした。
封蝋を押す印章には、持ち主しか知らない小さな欠けがある。イセラは封印の写しを別紙へ取っておき、次に割れて届いても照合できるようにした。ダルムは箱を持ち上げ、今度は底が当たらないか確かめた。宛先の砦では靴を待つ伝令がいる。文が無事に届くこと自体が仕事の一部だった。




