机を囲む子ら
学校で教師サラは子供たちに、同じ丸い机を囲ませた。境界の内側に暮らす魔族の子と、通学のため川を渡る人間の子がいる。昨日口論した二人を離すより、鉛筆を貸し借りさせるほうがよいと考えた。
議題は町の古い井戸だった。絵地図の中で井戸を示す印が班ごとに違い、誰が描いても分かる形が必要になる。目印に屋根を描く者もいれば、桶を描く者もいた。
授業後、一人の子が勇者を知っているかと聞いた。サラは剣を持った旅人の噂を耳にしたと答え、顔も知らない相手を良い人とも悪い人とも言えないと伝えた。子供は納得したようで、まだ少し不満そうだった。
夕暮れ、机の上には井戸の絵が何枚も残った。サラは最も分かりやすいものを一つ選ばず、全部を持ち帰った。誰かの土地では、一つの形だけでは伝わらないかもしれない。
子供たちは井戸の絵を描く途中で、魔族が行けない道を青い線、人間も通れる道を赤い線に分けた。サラは二色だけでは雨の日の危険を示せないと気づかせ、三色目を加える相談をさせた。線が増えるほど地図は複雑になる。何を省けば迷わないかを考える時間になった。
川向こうから通う人間の子は、橋のたもとにある古い石像を目印に描いた。魔族の子はその石像を見たことがなかった。自分が行ける範囲だけで地図を作れば、別の者には役に立たないと知る。帰りの鐘が鳴るまで、机の上では何本もの道が引き直された。
サラはできあがった地図を壁へ貼り、ひと晩置いてから子供に見直させた。翌日には、昨日気づかなかった坂道の印が足りないと分かった。人間の子は橋の向こうにある坂を描き足し、魔族の子は境界のこちらへ続く石段を加えた。机を囲んで違う場所を知っていることが、一枚の絵を育てていった。




