封を解かぬ朝
使者になる予定の若い兵は、夜明けに白布を畳んだ。名をルドと言い、以前は砦の井戸を担当していた。勇者と対面する可能性を聞いても志願を取り下げなかったが、手は冷えていた。
ベドは恐れてよいとだけ言った。立派な言葉を並べても恐怖は消えない。出会えなければ引き返す、相手が剣を抜いたら逃げる。使者の帰る道を先に決めた。
レシュはルドの通れる領域を地図で確認した。泉の先に足を踏み入れれば、本人の意思とは関係なく歩みが止まる。その場で何が起こるかを考え、接触場所を境界よりずっと手前へ移した。
昼、ルドは白布を肩へ掛けて出発した。文の封は解かれないまま、背嚢に収まっている。砦の門を出たとき、ユリはただ無事に帰れと声をかけた。
ルドは井戸掃除の仕事で使う布をきれいに洗っていた。白布を肩に掛ける前、いつもの腰紐を結び直す。手に武器がないと落ち着かず、代わりに小さな木の笛を持ちたがったが、ベドは合図を誤解されるかもしれないと言って止めた。
母からは短い手紙が届いていた。勇者のことは何も書かれておらず、畑の豆がよく育ったとある。ルドはその一行を読んで息をついた。帰ったら返事を書くつもりだった。レシュは出発前の顔色を確かめ、体調が悪ければ別の日にしてよいと告げた。命令を拒める余地も、使者へ持たせる大切なものだった。
ルドの父は昔、東砦の門を修理した職人だった。母の手紙には、あの門の木目が今も残っているだろうと記されていた。ルドは出発前に一度門板へ触れ、磨り減った場所を指でなぞった。帰ってくる場所を確かめてから、東の道を歩き始めた。




