白布の使者
魔王城では勇者への使者を出す案が再び議論された。護衛長ダルムは武装を解いた一人を派遣し、道で待つことを提案する。執政官メルドは、その一人が帰れる保証はないと答えた。
書記官イセラは白い布を選び、敵意がないことを示す印を縫いつけた。城の文を読める者だけが意味を知る印では通じない。そこで剣を鞘へ収めた絵を描き直した。
魔王ヴァルゼンは使者に言わせる言葉を考えた。三度の死について問うべきか、城へ来る理由を尋ねるべきか。どちらも相手を追い詰めるかもしれない。王は最初の文を「話を聞かせてほしい」とだけした。
布と文を持った伝令は東砦へ向かった。まだ勇者の位置は不明だ。使者を探す斥候の安全を確かめず、命令だけ先へ走らせることはできなかった。
白布には刃を外に向けていない鞘の絵が描かれた。イセラは最初、王家の印を付けようとしたが、相手がそれを挑発と受け取るかもしれないと思い直した。魔族の言葉を読めぬ者にも届く図柄を求め、学校の子供が描いた手の絵を参考にした。
ダルムは使者の帰還を最優先にしたいと申し出た。勇者と話せれば情報は得られるかもしれない。しかし言葉を届けるために一人の命を失うなら、何を守るための交渉なのか分からない。ヴァルゼンは護衛の提案を聞き、使者が出会わなかったときの帰り道まで文書へ添えた。
王の文には、答えたくない問いへ答える必要はないとも書かれた。イセラはその一行に驚いたが、消さなかった。話をするためには相手にも断る自由がいる。もし使者が戻れば、王は返事の有無だけで敵意を量らず、出会った状況を確かめるつもりだった。




