死を数える手
城の書記官イセラは戦死者名簿を新しい紙へ写した。兵だけでなく、道の補修で落石に巻き込まれた働き手の名もあった。記録の区分は異なるが、帰らぬ人を待つ家に違いはない。
魔王ヴァルゼンは三度殺した勇者について尋ね、当時の遺体確認者が全員生存していることを確かめた。一度目も二度目も三度目も、血が止まり体温が失われた。どこにも生き延びた余地はなかった。
ダルムは呟いた。「こちらの死者は帰りません」。王はその言葉を聞いたまま、名簿の角を指で押さえた。繰り返し戻ってくる一人を恐れても、今日埋めた若者の家族への責任は消えない。
イセラは名簿の余白に、遺族へ届ける食料の量を書き足した。墓地へ運ぶ花とは別の帳面だった。記録は亡骸を蘇らせない。それでも残された人の明日を支える紙にはなれる。
名簿には剣の男と戦って死んだ者だけでなく、遠征中に病で亡くなった者も記されている。ダルムは以前、戦死だけを特別扱いしていた自分を思い出した。墓守の名簿では違いがあっても、帰らぬ者の数は同じだった。
ヴァルゼンは勇者を倒した三度目の夜を思い返した。医官が脈を取り、首と胴が離れているのを確かめ、護衛が夜明けまで死体を見張った。その光景を疑う余地はない。だからこそ再び歩く姿を聞くたび、王の手は冷たくなる。イセラは遺族の名簿を閉じ、食料の受け取りに来られない家には届ける人を付けた。
イセラは紙の最後に、遺族へ渡す薪の量も加えた。食べ物が届いても火がなければ冬は越せない。城の倉庫番と診療所の者へ確認を取り、重い荷を運べない家には配達を頼んだ。王は勇者の記録を閉じ、名簿に残った小さな家の住所へ目を落とした。




