見えていた剣
ネインは遠い岩場に四人組を見つけた。右頬に傷のある剣の男、長槍を持つ女、弓を背負う少年、荷を抱えた年長者。彼らが岩場を下るとき、剣の男だけが足場の不安定な場所へ先に立った。
突如、谷底から小さな角獣が跳ね上がった。剣の男の刃は抜かれてから戻るまでが短く、ネインには一度の白い弧にしか見えなかった。以前、硬皮獣と戦ったときより動きが速い。倒された角獣は谷へ転がり、槍の女が仲間を引き戻した。
ネインは近づかなかった。境界までの距離を指で測り、観察できた動作だけを記録する。魔族の剣士が同じ距離を縮めるには、装備を工夫しても限界がある。だがそれを嘆く報告を書くつもりはなかった。
帰路、雨の中でネインは手の甲を切った。傷は痛み、布を巻かなければ血が止まらない。遠くの剣の男に比べるまでもなく、彼自身の体は変わらず傷つくものだった。
角獣が倒れた瞬間、弓の少年は矢を引きかけて止めた。ネインはその動きも目にした。剣の男の速さだけではなく、仲間が何をしなかったかを観察することも必要だった。年長の男は荷を持ち直し、転びかけた仲間へ手を伸ばしていた。
砦へ持ち帰った記録を読んだベドは、自分ならその速さに盾を合わせられるかと尋ねた。ネインは正直に難しいと答えた。二人は訓練場で間合いを確かめたが、勇者と同じ動きを再現したふりはしなかった。できないことを知るための訓練がある。ネインの傷に包帯を巻いたユリは、次の巡回を一日休めと命じた。
ネインは報告に「速い」とだけ書かなかった。剣を抜いた位置、角獣が跳ねた高さ、刃が通った角度を図にした。どれも遠方からの推測を含むため、その旨を明記した。ベドは図を手に訓練場へ向かい、自分の盾を置く場所を一から考え直した。




