帰らない伝票
南の市場へ預けた銭の返金伝票が、約束の日に戻らなかった。メルドは裏切りと決めつける前に、誰が受け取り、どの船へ積んだかを調べた。書記官イセラは伝票の写しを三つ作っていた。
一通は舟頭組合、一通は市場、一通は城。二通目には、雨で船便が一日遅れたと書き足されている。三通目にはまだその知らせがない。紙の行き違いで相手を敵と呼ぶところだった。
通行銭を取った元橋守からは短い文が届いた。損を受けた店を回りたい、ただし護衛の兵には来てほしくないという。グラドは武装した者を連れず、商人の代表を同席させることにした。
ヴァルゼンは報告を読み、城の者が船便の遅れまで意のままにできると思うなと告げた。王の命令は遠くまで届くことがある。だが届く速度は、風と川と人間の判断に負けることもあった。
壊れた運搬箱の底には以前の封蝋がこびりついていた。伝票が濡れたのは誰かが開いたからではなく、船倉の隅で箱が傾いたためらしい。イセラは船頭の名前を調べ、不必要な疑いが向かぬよう事情を記録した。
商人の代表には、返金を受け取ったら額を照合し、足りなければその場で書き残すよう勧めた。現金だけが戻っても、次に同じことが起きれば意味がない。ヴァルゼンは遠い会場のために兵を増やす代わり、人間側の立会人へ謝礼を出した。国境を越えるのは王の足ではなく、互いの信頼を確かめる小さな手順だった。
新しい伝票には、川の便が止まった日も記入する欄ができた。船頭の都合で遅れたのか、天候で誰も渡れなかったのかを残すためだ。イセラは細い罫線を引き、記録を次に使う者の負担にならぬよう、必要な項目だけ残すことにした。




