羊毛の借り
羊毛商人オードは北の宿場へ戻る途中、通行銭騒ぎで足止めされた荷運びカルと会った。カルの荷には西の村へ送る毛布がある。オードは自分の荷を少し軽くし、空いた場所に毛布を載せた。
カルは借りを必ず返すと言った。オードは現金より、次に村へ来たとき温かい湯を一杯もらえればいいと笑った。二人が交わしたのは大きな契約ではない。しかし商道の安全が失われたとき、こうした小さな頼みが荷を動かす。
東の砦では通行銭を払った人間の旅人が不満をこぼした。門番ユリは文句を聞き、こちらの村の者にも同じ被害があると伝えた。旅人は少し驚き、魔族が皆取り立てる側だと思っていたと認めた。
オードの荷馬車は夜前に到着した。西の村で毛布を受け取った祖母は、借りた分を干し草の束で返そうとした。オードは馬の餌にちょうどよいと喜び、約束の湯を飲んだ。
オードの馬車には雨除けの布が一枚しかなかった。羊毛を濡らさぬため、カルは自分の荷を奥へ寄せ、毛布の束だけ上へ重ねた。道中で荷が傾くたび二人は停まって結び直した。借りは単に物を運ぶことではなく、その間の手間を引き受けることでもあった。
ユリが話を聞いた人間の旅人は、魔族の兵が剣を抜かずに水を差し出したことを不思議がった。砦の外には戦争の噂が多い。ユリは自分たちも恐れていると答えた。旅人はその返事をしばらく考え、宿への道を尋ねて去った。彼がどこで何を話すか、ユリには知りようがなかった。
旅人が去ったあと、ユリは砦の門に残る古い傷を見た。昔の戦いでついたものと聞いているが、誰が付けたかは知らない。新しい訪問者も同じ傷を見て警戒したのだろう。彼女は門の板を拭き、水を汲むための小さな桶を見える場所へ置いた。




