席札の名
南の商道をめぐる会合の日、会議机には二十枚の席札が並んだ。来たのは十一人。人間の舟頭組合から三人、魔族の商人から六人、残りは村の代表だった。空席の前にも水だけは置かれた。
メルドは通行銭を取った男たちに、荷を奪われた者の一覧を見せた。元橋守の長は修繕のための費用だったと訴えたが、修理された橋の記録を持っていなかった。話はそこで止まった。
魚売りリナは取られた銭の額だけでなく、魚が傷んだ日付を述べた。数字の小さな被害でも、商いをする者には次の日の仕入れを左右する。会場の誰も彼女を急がせなかった。
会議が終わる頃には、返金の方法も決まっていない。ただ、徴収者が人間の船頭組合とともに橋を検分することになった。メルドは席札を回収せず、次の会合まで机に残した。
空席の一つは病気の母を看る商人のために用意してあった。メルドは代わりの者を無理に連れてこず、書面で意見を受け付けると約束した。話し合いに来られない者の被害を、その場にいないという理由で軽く扱わないためだった。
元橋守の男は橋の修理で失った賃金を訴えたが、リナは自分も魚を捨てたと応じた。どちらの損が大きいかを争えば、解決は遠のく。船頭組合の長は一つずつ額と日時を調べる案を出した。議事を記すイセラの筆先は速くならず、誰かの言葉を途中で切ることもなかった。
会議の後、リナは元橋守の男に魚を売らなかった。意地悪のためではない。彼が今持っている銭の出どころが分からず、受け取るのをためらったからだ。男も無理に求めず、次の会合で話すと告げて去った。リナはその背中を見送り、帳面の被害額を書き直した。




