鍛冶場の火花
城下の鍛冶場では、農具の修理が武器の手入れより多かった。親方ゼマは欠けた鍬を見て、どの畑の石に当てたのか言い当てる。土質によって刃の欠け方が違うのだ。
午前中、東の砦から槍の石突きを十本直してほしいと頼まれた。兵が増えた分だけ道具が足りないという。ゼマは鉄の在庫を数え、鍬の修理を終えてから取りかかると答えた。
弟子のニコは不満そうだった。
「危ないときこそ武器が先じゃないですか」
「畑を耕せなきゃ、槍を持つ兵も腹を空かせる」
ゼマはそう言ったが、弟子が心配していることは知っていた。ニコの姉は東の森の縁で薬草を集める仕事をしている。最近は帰りが早くなり、採れる薬草も少ない。
午後、兵が折れた剣を一振り持ち込んだ。城の武器庫で見つかったという。刃元には赤黒い焼け跡があり、柄の革は新しく巻き直されていた。
「直せますか」
ゼマは破断面を見て、首を振った。
「打ち直せば剣にはなる。だが元の剣には戻らん」
剣は返却された。誰も詳しい由来を話さなかったが、ゼマは兵の指が柄に触れないよう避けているのを見逃さなかった。
ニコは鍛冶場の隅に、姉のための小さな草刈り鎌を置いていた。山の斜面で使いやすいよう柄を短くしたもので、試作品には自分の名を刻んである。ゼマは鎌を見て、刃先の角度が鋭すぎると教えた。草だけでなく指まで切ってしまう。ニコは悔しそうに削り直した。人を守る道具は、強ければよいというものではなかった。
夕方、ニコは姉を迎えに行った。ゼマは一人で火を落とし、冷めてゆく炉に灰をかぶせた。明朝は農具が五本、兵の槍が十本。仕事の順番はまだ変えない。その順番を守れるうちは、この町には明日がある。




