水に沈む色
学匠モールの作業台に、灰色の粉を混ぜた水と、何も入れていない水が並んだ。弟子ソラは一晩置いた瓶を光に透かし、底に小さな粒が集まっていることを確かめた。
魔力の波は測れず、毒だとも分からない。モールは近くの森で働く者へ、手袋を使い、採取地を記録するだけの通達を出した。調べていない病の噂が、先に広がることを嫌った。
城の庭師トゥナは粉が風で飛ぶなら温室にも来るかと尋ねた。ソラは距離と風向きから可能性を計算したが、答えを出すには材料が足りなかった。トゥナは念のため開けていた高窓を一枚閉めた。
夜の作業場でモールは粉の粒を布に包み、棚の上へ封じた。隣には以前割れた観察用水晶の破片がある。似た時期に起きたというだけで、二つを同じ箱に入れはしなかった。
ソラは瓶の底に沈んだ粒を布で濾し、乾いた粉と重さを比べた。水に入れると少し膨らんでいる。植物の胞子なら似た性質のものもあるが、石を砕いた粒の中にも水を吸うものはある。モールは拡大鏡の焦点を動かし、決め手になる形が見えないことを認めた。
トゥナは温室の苗の葉を一枚持ってきた。葉裏には普通の土埃があり、灰色の粉とは色が違うように見えた。ソラは肉眼だけで比較せず、別々に保管した。病気が見つかれば急いで知らせる、見つからなければ安心と言い切らない。それが作業場で二人が交わした取り決めだった。
作業場の棚には、採取した場所ごとに木の札が並んだ。ソラは瓶を取り違えぬよう紐の色も変えた。モールは分からぬことを隠さず、森の番人へ経過だけを知らせる文を送った。
小さな粒は瓶の底で静かに光った。




