↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者は何度でも蘇る。魔王は玉座の間から出られない。  作者: 竜太郎


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
135/240

渡れない祝い

南の村では舟頭コルムの娘の祝宴が開かれる予定だった。向こう岸の知人が集まるが、渡し守ケルンは領域の境界から先へ行けない。かつて娘が病んだ際、夜通し舟を出したのは彼だった。


コルムは岸の石に酒瓶を置き、隣に一つだけ空の盃を並べた。ケルンは苦笑し、舟を寄せた場所から祝福の言葉を投げた。音は水面を越えたが、手を伸ばしても相手の肩には届かない。


祝いの料理は人間の若者が小舟で運んだ。ケルンは境界の手前で受け取り、村の古老と分けた。宴の歌が遠くで続く。誰もが同じ席へ座れないことを、娘も幼い頃から知っている。


夜、祝宴が終わるころ、対岸の灯が一つ揺れた。娘が手を振っていた。ケルンは盃を掲げ、川へこぼさぬよう最後の一滴まで飲んだ。約束は渡れなくても、祝いは届いた。


祝いの日は朝から川に風があり、舟の渡しには慎重さが必要だった。ケルンは酒瓶を運んできた使者へ、潮のように見える川の逆流を教えた。祝いの荷だからといって無理に急ぐなと伝えると、若い使者は正午の便まで待った。

コルムの娘は幼い頃、熱を出して川を渡れなかった。そのときケルンは夜の岸に灯を置き、対岸で探す人が居場所を見失わぬようにしていた。祝宴の料理にはその夜を覚えている老女の手作りの菓子もあった。ケルンは一つだけ取っておき、翌朝に持ち越した。境界の線が見えなくなる暗い川でも、自分が歩ける道は変わらない。


老女の菓子は川向こうの祝宴と同じ形に焼かれていた。ケルンは甘い香りを嗅ぎ、娘が子供だったころ舟の端で笑っていた姿を思い出す。境界があっても記憶まで分かたれてはいない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。