沈んだ釘箱
北橋の下流で、修理用の釘箱が一つ沈んだ。船が揺れた拍子に結び紐が切れたのだ。魔族の職人ホルは橋脚を越えて潜れず、人間のフィンも濁流へ入ることは禁じられている。
ブラムは新しい釘を作れば済むと言ったが、ニコは箱の中に師匠ゼマが仕立てた特殊な太釘があると知り、青ざめた。水に浸かれば錆びる。取り戻そうと身を乗り出す弟子を、ブラムが首根っこを掴んで引き戻した。
フィンは川底の流れを測るため、重りをつけた紐を数か所へ垂らした。回収できる日が来るかもしれない。ただし今日ではないと判断し、替えの釘を発注した。
帰り際、ニコは師匠へ失敗を報告した。ゼマは怒鳴らず、次に箱を結ぶなら二重にせよと教えた。代わりの釘は翌朝から鍛えられた。橋の仕事は少し遠回りして進む。
落ちた釘箱の中には、橋脚を固定するため長さの異なる釘が入っていた。水の底で何かを引っかけても、箱を無理に引けば古い橋の板を剥がしかねない。ブラムは釣り鉤を使う案を退け、川が澄む季節に改めて調べると言った。
ニコは戻ってから木箱の結び紐を切り、切り口をゼマへ見せた。すり切れた部分には以前の傷が残っている。使う前に見つけられたはずだと気づくと、弟子は口をつぐんだ。ゼマは責めるより、毎朝点検する縄の一覧に箱の紐を加えた。次に同じ失敗を減らせれば、落ちた鉄の損にも意味が生まれる。
ニコは新しい箱の留め金にも触れ、指が引っかかる場所を削った。以前のものより少し重くなったが、落ちにくさを優先する。ブラムは運搬用の縄を新品に替える費用も認めた。
帰りの舟は岸へゆっくり寄せられた。




