流木の笛
南の川で子供が流木を拾い、穴を開けて笛を作った。夕方の風に吹くと低い音が出る。渡し守ケルンはその音を聞き、昔、増水のときに舟同士が知らせ合った合図を思い出した。
子供はもっと遠くまで聞こえる笛が欲しいとねだった。ケルンは笛の音だけで水の危険を見分けるのは難しいと教え、舟の灯と組み合わせた合図を考え始めた。川には人間と魔族が別々の岸で暮らしている。
対岸の舟頭コルムは、夕刻に鳴った笛を事故の知らせと勘違いした。岸へ着くなり走ってきた姿に、子供は驚いて笛を隠した。ケルンは子供を叱らず、仕事の合図と遊びの音の違いを説明した。
翌朝、岸の杭に小さな板が下がった。笛三度は危険、一度は呼びかけ。決め事は簡単だったが、岸の向こうへ伝えるには時間がかかった。川はその日も静かに流れていた。
ケルンは水位を示す石の線を子供へ教えた。川が低い日は岸の小石が見え、高い日は茶色い流れが杭の上まで来る。笛があっても水を読まなければ助けを待つ者へ届かない。子供は真面目な顔で線の位置を覚え、そこへ小さな魚の絵を描こうとした。
コルムの勘違いを詫びるため、ケルンは翌朝、対岸へ言葉を渡した。コルムは笑っているという伝言が戻ったが、事故の合図だけは混同せぬよう決めてほしいとあった。板の文字は魔族の言葉と人間の言葉で並べられた。岸に暮らす旅人がどちらも読めない場合を考え、三つの丸い穴も付けることになった。
川沿いの子は新しい合図を覚えるため、友人を相手に練習した。危険を示す音を遊びで鳴らさぬことだけは固く約束した。ケルンは二人が覚えるまで岸の石に腰掛けていた。




