失くした秤皿
市場の秤が一つ壊れ、正しい重さを測れなくなった。魚売りリナは客の前で皿を外し、裏側に古い亀裂を見つけた。最近の通行銭騒ぎを理由に誰かの嫌がらせだと言う者もいたが、亀裂の錆はずっと前からのものだった。
弟子ニコが鍛冶場から代わりの皿を運んだ。鍛冶師ゼマは人を疑う前に道具を見よと言い、重りを一つずつ載せ直す。リナはその場で以前の売上帳を開き、重さが狂っていた日の払いすぎを探した。
見つかったのは、干し魚二尾分の差だけだった。だが買った老人の名は覚えている。リナが返しに出向くと、老人はもう忘れていたと笑い、かわりに屋根の軒先を直す手を貸してくれと頼んだ。
市場の閉まるころ、ニコの指には新しい火傷ができていた。ゼマはそれを水で冷やし、急ぎ仕事のあとほど手元を見るよう言った。治った秤の皿は、小さく澄んだ音を立てた。
皿を直す作業には、秤の針を止める細い留め金が必要だった。ニコは鍛冶場で急いで曲げ、一本目を折ってしまう。ゼマは折れた金具を取り上げ、火へ戻して再利用した。金属を惜しむのは貧しさからだけではない。作った者の失敗を次の品に活かすためでもある。
払いすぎた客を調べると、帳面には老人のほかに名の分からぬ旅人が一人いた。リナは次に会ったとき返せるよう、小銭を封筒へ入れた。旅人がもう市場を通らないなら、その銭はいつまでも残る。店を閉める際、彼女は封筒を棚へ置き、客に損を押しつけなかったという小さな安心を覚えた。軒先の修理は休日に手伝うことにした。
老人の家の軒先には割れた瓦が二枚残っていた。リナは休日にニコを連れて行くことを思いつき、修理用の梯子を借りる先を帳面に書いた。




