舟頭からの口上
渡し守ケルンは川面に流れ着いた木札を拾った。人間側の舟頭コルムが使う印だったが、裏には通行銭を集める者たちの居場所が粗く刻まれている。ケルンの小舟はいつもの杭から向こうへ進めない。
彼は川岸の大きな石に札を置き、対岸から来る客を待った。昼近く、人間の女が洗濯物の籠を抱えて渡ってきた。女は徴収者に渡す銭がないと告げられ、夜明けまで足止めされていたという。
ケルンは女の話をグラドへ送った。グラドは兵の出動よりも、人間の船頭組合に使いを出すことを選ぶ。境界を越えられない者が大声で怒鳴っても、川向こうの事情は変わらない。
夕暮れ、向こう岸で船が三艘集まり、灯を掲げて何かを話し合っていた。ケルンには声は届かない。木札に返事が刻まれて戻るかどうかも不明だった。水の上を行き交うのは、船ばかりではなかった。
洗濯物を抱えた女は川を渡るとき靴を脱いでいた。舟を待つ間に泥が詰まり、濡れた足で立っていたからだ。ケルンは岸の小屋から乾いた藁を持ってきて座らせ、金を取らなかった。女は何度も頭を下げたが、彼は明日も舟を動かすなら人の足を守るのは仕事だと言った。
木札の印を調べると、舟頭コルムの刻み方とは左右が逆だった。急いだためか、別人が似せたのかは分からない。ケルンは推測を口にせず、札を預かった時間を記録した。流れの速い川では物が上流から来るとは限らず、渦に巻かれて戻ることもある。木札が見つかった場所を示す杭を打ってから、夕方の客を迎えた。
ケルンは帰る女に、小屋の軒下で足を拭くよう勧めた。女は明日も川を渡るという。岸に暮らす者には、往復できることこそ大切だった。




