通行銭の紐
南の商道で人間の一団が通行銭を取り立てていた。魔族の商人たちは自分の領域を越えて追うことができず、荷を止められたまま帰る者が増えている。魚売りリナの籠にも、見知らぬ赤い紐が結ばれて戻った。
リナは紐を捨てず、秤の横へ置いた。金額を払った証だというが、何の権限を持つ者が集めたのか分からない。市場の年長者は紐の編み方を調べ、各商人の証言を別々に残すよう勧めた。
守備隊長グラドは国境へ兵を並べなかった。武器を見せれば向こうの人間まで怖がる。まず川向こうの舟頭コルムに、通行銭を取られた人がほかにもいるか聞いた。返事には、徴収者の一人が以前は橋の修理を手伝っていたとあった。
夕市でリナは魚を一尾安く売った。今朝、銭のせいで持ち金が減った子連れの客にだった。商道の争いは解決していない。ただ、紐の意味を決める前に、店先で暮らしを止める気はなかった。
朝の魚の仕入れが遅れ、リナは傷む前に売るため価格札を書き直した。常連の老人は安くなった理由を聞き、無理をしているなら買わないと言った。リナは損を隠さず、今日は売らなければ捨てることになると話した。老人は余分に二尾買い、塩を貸すと言って帰った。商いの損失は市場の台帳だけでは終わらない。
赤い紐の端には、交差する二本の結び目があった。舟頭組合の印と似ているが、同じではない。グラドは敵の印として兵に覚えさせることを控えた。似た紐を使う漁師まで疑われるからだ。代わりに紐を紙へ縫いつけ、実物を保存した。リナの娘は余った紐で遊ぼうと手を伸ばしたが、母は仕事の証として今だけ貸せないと優しく告げた。
夕方、店の隅に残った赤い紐が風で揺れた。リナは紐を結び直し、翌朝には売り場の板を洗うつもりだった。




