石倉の二人
石倉には近隣の避難用毛布が積まれていた。村長は布を数えている最中に、隣村から逃げてきた人間の兄妹を見つけた。兄は腕を吊り、妹は自分の食べ物を兄へ押しつけていた。魔族の村で一晩過ごすことを、まだ怖がっている。
門番ユリは二人の名を尋ね、答えたくなければ無理に言わなくていいと伝えた。避難者に必要な水と寝床は、出自で変えない。村長は毛布を二枚取り出し、倉の鍵の場所を教えた。
兄は川沿いの道で荷を落としたと話す。誰かに追われたのではなく、増水した細い橋で足を滑らせたのだ。ユリは報告書へ「人間二名、事故による避難」と書いた。勇者に関係する事件へ結びつけなかった。
夜食に薄い麦粥が出ると、妹は器の底を舐めるように食べた。もう一杯欲しいと言い出せずにいたことを見抜いた村長が鍋を寄せる。兄妹の寝息が聞こえるまで、石倉の戸は閉められなかった。
石倉の奥には、避難者が自分の靴を並べる棚があった。兄妹の靴は泥にまみれ、片方の踵が剥がれている。ユリは予備の草履を二組持ってきたが、兄は履き慣れた靴を離そうとしなかった。逃げる途中、父が最後に直してくれたものだという。村長は靴を捨てる話をやめ、縫える者を探した。
妹は寝る前になって家の鍵を差し出した。もう帰れないと思って握っていたらしい。村長は鍵の形を確かめ、戻る道の情報を調べると約束した。ただし今夜すぐ送るとは言わない。川の橋はまだ危うく、腕を吊った兄を歩かせるわけにはいかなかった。妹は鍵を布に包み、枕の下へ置いてようやく目を閉じた。
兄の傷が癒えるまで、村の子たちが二人に道を教えることになった。妹は最初、小さくうなずくだけだった。




