道標の裏側
ベドは新しい道標の裏へ、指先ほどの溝を彫った。雨が長く残れば木が割れる。通りかかった村の大工に教わった細工だった。剣の男が旅人を助けた場所から、道標は半日ほど離れている。あの日の騒ぎを知らない荷馬車が、今朝も二台通った。
隊長レシュは標の高さを低くするよう命じた。馬に乗った者だけでなく、歩いて来る子にも読めなければならない。ロアは意外そうにしたが、板を外して刻み直した。遠い宿場を示す矢印だけはそのまま残した。
村の少年が水筒を抱えて現れた。牛を助けてくれた人に渡したいのだという。ベドは勇者の行方を知らず、渡せると約束しなかった。そのかわり水筒の底に少年の印を描いてもらった。
夕方、レシュの机には砦の修繕費の紙と、道標の材料費の紙が並んだ。兵の盾を直す鉄も足りない。それでも木板二枚分の費用には、ためらわず印を押した。歩く者が道を間違えぬことは、戦が起こらなくても必要だった。
朝の巡回でロアは道標が片方だけ濡れていることに気づいた。木立の陰に入る面と、雨を受ける面で乾き方が違う。ベドは裏へ溝をつけた理由を教え、村の木こりが枝を一本落とすだけでずいぶん長持ちすると言った。木こりには先に断りを入れ、薪にできる枝だけを切ってもらった。小さな修理にも持ち主のいる森が関わる。
少年の水筒は空のまま砦に預けられた。中に水を入れて置けば傷みやすいとユリが勧めたためだ。底に描かれた牛の絵はへたで、脚が六本あった。ベドは笑いをこらえ、絵を直すか尋ねたが、少年はそのままでいいと言った。剣の男の顔より先に、その水筒の形を覚えているのだろう。夜、少年の母が礼に焼いた豆を届けた。




