二つの道標
東の古道が仮に通れるようになった朝、隊長レシュは新しい道標を立てた。一方は村の石倉へ、もう一方は人間の宿場へ続く。どちらも危険の少ない道として整えたが、魔族が歩けるのは片側だけだった。
兵ロアは道標へ文字を刻みながら、崖の向こうで剣の男が旅人を救った姿を思い出していた。勇者は城を目指す者であり、三度命を失ってなお戻った者でもある。その事実は変わらない。しかし救い出された旅人にとっては、命をつないでくれた人間だった。
年長のベドは、考え込むロアへ木槌を渡した。今は文字をまっすぐ刻む仕事だと笑い、一本目の道標を支えた。ロアは槌を打ち直し、人間の言葉をもう一度確かめた。
昼前、遠い山から雨雲が近づいた。村の者たちはまだ畑に残っており、砦の鐘は鳴らなかった。レシュは道標の位置を調べ、荷車が通るとき邪魔にならないよう石を寄せた。
城では、書記官イセラが東の報告を新しい帳簿へ写していた。勇者の行方について、確かなことはほとんど増えていない。魔王ヴァルゼンは謁見の間から出られず、遠い村のためにできる命令を一つずつ出していた。
道標の近くには、昨日の崖崩れで運ばれてきた石が積まれていた。村の職人はそれを使い、道の端へ小さな腰掛けを作った。歩き疲れた人間の旅人が座れる場所で、魔族の子供も境界の手前なら使える。ロアは石の隙間に草が挟まっているのを見つけ、手で払い落とした。
ベドは新しい印を眺め、いつか字が読めない者にも分かる絵を付けようと言った。道標が立ったからといって、すべての人が迷わなくなるわけではない。
夕方、二つの道標は雨を受けて濃い色になった。宿場へ行く人間が一人、道を間違えずに歩いて行った。ロアはそれを見送った。もう一方の道では、村から帰る子供たちが、今日も同じ石倉の前を通っていた。




