答えのなかった問い
東砦からの報告は、魔王ヴァルゼンの元へ届いた。三度討った男が、崖から落ちた旅人を助けたという。護衛長ダルムは困惑した表情を隠せなかったが、ヴァルゼンは最後まで読み、旅人が助かったことを確かめた。
執政官メルドは、勇者が城へ向かうのか分からないと説明した。右頬の傷と剣の柄は一致し、同じ人物とみてよい。ただし何を求めているのか、こちらの境界を知っているのかは不明だった。
ダルムは直接会って問うことを提案した。魔王が外へ出られないなら、護衛を送り、距離を取って話すことはできるかもしれない。メルドは、最初の言葉を誤れば交渉が戦いになると心配した。
ヴァルゼンは二人の意見を聞き、急いで使者を出す命令を控えた。四人組は旅人を助けたばかりで、その行動だけをもって敵意が消えたと信じることはできない。しかし、敵だと知るだけで向けられた手を見なかったことにもできない。
イセラは過去三度の記録を机へ並べた。死亡を確認した日と、再び目撃された日が離れている。間に何が起きたかは空白のままだった。
ヴァルゼンはイセラに、崖の救助について書かれた紙をもう一度読んでもらった。『こちらから投げた綱を使った』という箇所で書記は声を止めた。王はそこに指を置いた。魔族の手から渡った物が、人間の足を救っている。境界は渡る体を選んでも、渡された物までは押し戻さない。
メルドはその記録を見て、物資の輸送へ応用できるかもしれないと考えた。軍の疑問から始まった話が、遠い村の暮らしへつながる。王は静かに頷いた。
その夜、ヴァルゼンは玉座の肘掛けを握り、遠い城門の方を見た。自分には越えられない二十歩がある。あの男には何度でも歩き直せる道があるように見えた。その差を、王はまだ誰にも説明できなかった。




