壁の向こうの風
魔王城の外庭では、冬前の剪定が始まっていた。庭師のトゥナは長い枝を束ね、門のそばに積んでゆく。地下の温室で育てた果樹は冬に弱く、枝を落とす時期を誤れば翌年の実が減る。
庭の隅には、城外から吹き込む風が必ず渦を巻く場所がある。壁に小さな亀裂があるためだ。トゥナは修理を頼んできたが、石工は春まで待ってほしいと言った。寒い時期に石を詰めても、すぐ割れてしまう。
そこへ書記官イセラが通りかかった。剪定した枝の量を数え、薪として使えるものを倉へ運ぶ手配をする。戦いの記録を見て夜も眠れなかった日が続いているが、枝の数まで間違えるわけにはいかない。
「顔色が悪いですよ」
トゥナに言われ、イセラは初めて手を止めた。
「昔の書類を探していてね」
「紙は逃げません。温かいものを飲んでください」
温室で出された茶には、乾燥した木の実が一粒浮いていた。城の温室で採れる実は小さい。それでもトゥナは毎年少しずつ土を改め、実がなる枝を一本増やそうとしている。
イセラは窓から謁見の間の塔を見た。魔王はあそこから出られない。それを知りながら、今年も温室の収穫祭に招待状を出してしまった。ヴァルゼンは断らず、手書きの礼状を返してくれた。
「来年も実がなりますか」
イセラが尋ねると、トゥナは土を指で確かめた。
「花が落ちなければね。落ちたら、また枝を育てます」
トゥナは温室の暖房管を点検しながら、今年初めて咲いた白い花を指した。花は城下では珍しいが、西の村では道端に生えているという。場所が違えば、珍しいものも変わる。イセラは花の名を書き留め、村へ送りたいという種の数を尋ねた。遠くへ届ける小さな包みは、軍の書状と違って柔らかな布で包まれた。
風は亀裂から静かに吹き込み、乾いた葉をひとつ動かした。




