越えられない救助
崩れた古道の向こうから、助けを呼ぶ声が聞こえた。魔族の荷運びが境界に阻まれる場所で、人間の旅人が足を滑らせ、沢の斜面へ落ちたらしい。兵ロアとベドは崖の手前まで走った。
旅人は岩棚にしがみついていた。手を伸ばせば届きそうな距離だったが、ロアの身体は境界で止まった。彼は何度も足を踏み出そうとし、動けないことに歯を食いしばった。
ベドはロアの肩を押さえ、縄を探した。手が届かないなら物を渡せる。二人で長い綱を結び、岩棚へ投げた。しかし旅人の指はかじかみ、綱を掴めない。
ロアは落ちた綱を岩に引っかけ、何度も投げ直そうとした。だが旅人の手は冷え、距離も足りない。ベドは結び目を大きくしてから再び放った。縄だけでは支えきれないと悟ったとき、林の奥で別の足音がした。
旅人は助けられるまで、何度も母親の名を呼んでいた。どこかの家で待つ人がいる。その声を聞いたロアは、敵を見つけた驚きの中でも旅人から目を離さなかった。
そのとき、崖の上へ人間の四人組が現れた。先頭に剣の男がおり、右頬の傷が遠くからも見えた。ロアは槍を握ったが、ベドは声を掛けるよう命じた。
剣の男は言葉を聞いたのか、すぐ岩棚へ降り始めた。足元の岩を避け、旅人の腕を掴み、仲間へ綱を渡す。四人は協力して旅人を道へ引き上げた。
ロアはただ見ていた。三度死んだという相手が、境界の向こうで自分たちにできないことをしている。旅人が無事に立ったとき、剣の男は砦の兵へ軽く手を上げた。
ベドも手を返した。敵と知る者へ礼を示すのが間違いか、誰にもすぐには分からなかった。沢の底では濁った水が、何事もなかったように流れ続けていた。




