旅商の秤
南の市場で羊毛商人オードは、人間の商隊と魔族の買い手の間に立っていた。運ばれた塩の袋が帳簿より軽いと苦情が出たのである。商隊長は途中で盗まれたと主張し、買い手は最初から量が少なかったと譲らなかった。
オードは双方の秤を並べ、同じ石を載せてみた。片方の針はわずかに右へ傾いた。原因は古い留め具で、特定の角度に置くと皿が引っ掛かる。どちらかが仕組んだと決めつけるには早かった。
買い手は謝罪を求め、商隊長は日程が遅れると怒った。守備隊長グラドは二人を分け、次の荷の受け渡しから市場の共通秤を使うよう提案した。誰かを追い出すより、次の争いを減らせる。
午後、商隊の若者が東の森を通ってきたと話した。四人組が旅人へ水を分けているのを見たという。顔の傷までは見えず、荷を背負った男が先に声をかけたらしい。オードは詳しい場所を訊いて紙に書いた。
夜、魚売りリナは売れ残った魚を商隊の炊事係へ安く渡した。朝にはまた買い手と売り手に戻る人々だったが、冷たい夜を越すには火と食料が必要だった。
市場で一番古い秤を持っていたのは、魚売りリナの祖父だった。祖父はどの店にも同じ石で測る習慣があったと話したが、石は長年使ううち角が削れている。オードは秤だけでなく重りも定期的に比べる必要があると気づいた。商隊長は口論の末、次の市へ正しい分銅を二つ持って来ると約束した。買い手も、今日の不足分をすぐ盗難と決めつけたことを詫びた。
商隊の荷車が動き出すと、子供が落とした小銭をリナが拾った。商売の揉め事が終わっても、一日の市場にはまだ拾うべき物が転がっている。
共通秤の針が中央へ戻ると、オードは店を閉めた。重さを確かめる方法を一つ決めるだけでも、市場の空気は少し穏やかになった。




