割れた水晶
学匠モールの部屋で、弟子ソラが観察用の水晶を割ってしまった。石壁の写しを重ねて見るために使っていたもので、割れ目は真ん中を横切っている。ソラは謝ったが、モールはまず手を切っていないか確かめた。
水晶を失えば細い傷を調べる仕事は遅れる。替えの品は遠方の人間の商人が運ぶもので、次の市まで手に入らない。モールは弟子を責めず、代わりに普通の拡大鏡で見られる部分を探した。
ソラは割れた水晶の片方で、石壁の五本目の線を見た。歪んで見えるが、ある方向からなら細い傷がはっきりする。彼は思わず発見だと叫んだ。モールは、割れた石が見せる歪みを本当の形と混同しないよう注意した。
二人は別の写しへ同じ水晶を当て、何がどの方向へ歪むか測った。規則性が分かれば、使える部分もある。壊れた道具を何でも使い続けるべきではないが、壊れた理由を知れば学べることがある。
夜、庭師トゥナが薬草の鉢を届けに来た。モールの机に散らばるガラス片を見て、掃除係が足を切らないようにしてほしいと言った。ソラは慌てて布を広げ、残りの破片を包んだ。
水晶の破片の一つは、窓から差す夕日を壁へ反射した。ソラは思わず光を追ったが、モールは火の近くへ光を集めぬよう注意した。道具の働きを知らず使えば、別の危険も生まれる。二人は破片を布で包み、机の端へ置いた。明朝には薬草を扱う庭師が来る予定で、彼女の手を傷つけぬよう場所を分けておく必要があった。
翌朝、学匠の机には新しい作業札が置かれた。『割れた水晶を使うときは、必ず歪みを比べる』。弟子の失敗は、同じ失敗を繰り返さないための知恵へ変わっていた。




