井戸の返礼
西の村に泊まった人間の女が去ったあと、少女ミナは井戸の縁に小さな袋を見つけた。中には乾燥した青い花が入っており、昨夜貸した寝具への礼らしい。祖母は花を指で揉み、遠い山で採れる香草だと教えた。
ミナは袋を村の皆へ見せた。病気に効くと言う者もいれば、茶に入れるだけのものだと言う者もいる。祖母は知らない草をすぐ口へ入れるなと止め、城の医官へ確かめる手紙を書いた。
昼過ぎ、荷運びカルは井戸の滑車が傷んでいることに気づいた。縄は替えたばかりだが、木の軸が磨り減っている。水を汲むたび軋む音がし、老人が力を入れると危なかった。
村長は城へ職人を呼ぼうとしたが、カルは近くの木工師で直せるか試したいと申し出た。西の境界より先へ職人が来られないこともある。直せることは村で覚えた方がよい。
祖母は木工師の作業をミナに見せた。削る前に軸の太さを測り、縄の当たる部分を何度も撫でる。急いで回すより、滑らかな木肌を作るのが先だった。
木工師が滑車を外すと、軸の中心には古い金属の芯が通っていた。祖母は先代の職人が工夫したものだと話したが、作った者の名前は思い出せなかった。カルは新しい木材へ芯を移す際、傷めずに抜くため少し時間を掛けた。村長は急がせなかった。今夜の水は桶に残っている。次の十年を使う道具なら、一刻を惜しんで壊すわけにはいかない。
夕方、滑車は軽く回るようになった。ミナは青い花を小さな瓶へ入れ、女の兄が見つかるよう祈った。遠くへ行けない自分でも、ここで誰かのためにできることがある。それを知った日の井戸の水は、少しだけ冷たかった。




