玉座の手紙
魔王ヴァルゼンの前に、東の砦と西の村から別々の手紙が届いた。東は粉袋が遅れた知らせ、西は種麦を守れたという報告だった。同じ紙の上でも、土地ごとに困っていることは違う。
執政官メルドは軍の備えを強めるべきだと進言した。勇者が城への道を探している以上、砦だけへ判断を任せるのは危うい。しかしヴァルゼンは軍の人数を増やす前に、避難者の受け入れ先を確かめたいと言った。
「城下に来た者を、誰が迎える」
メルドはすぐ答えられなかった。人を集めれば食料と寝床がいる。子供を通わせる学校も足りなくなる。城の大きさだけでは守れる人数は決まらない。
護衛長ダルムは謁見の間の扉を見た。王を守る兵はここに置ける。しかし遠い村で泣く子供のそばへ、王自身は行けない。その事実を皆が知っていて、誰も口にしなかった。
ヴァルゼンは書記官イセラに、遠方の村へ送り出す手紙の言葉を相談した。勇者の行方は分からず、三度倒したことは確かであり、今も誰かに危害を加えた報告はない。恐怖だけを伝えるのではなく、何を備えればよいかを書かせた。
夕食前、メルドは学校の教師である妻サラの元へ寄った。避難者が増えれば教室をどう使えるか尋ねるためだ。サラは机を動かせば寝床にもなると答えたが、授業の場を失わぬ方法を一緒に考えようと言った。
イセラは返事を出す村々の名前を並べ、距離の近い順に使者を振り分けた。だが同じ道でも境界の位置が異なり、一人では運べない先がある。メルドは人間の郵便商へ頼む分を別にし、誰がどこで書状を受け渡すか地図に印を付けた。王の命令は一枚の紙で届くわけではなく、多くの人の足と手を経て暮らしへ届くのだった。
玉座の間には、まだ返事を待つ手紙が残されていた。




