半端者
息を切らせながら現場に着くと、既に戦闘は終わっていた。
公園内の数少ない遊具には、戦闘の激しさを物語る焦げ跡がいくつもあった。
彼女は依形を解除しないまま、俺に背を向けて公園の中心に立っている。
「すまない。遅くなった……。無事か?」
「見て分かりませんか。普通の甲型なんて、私の敵じゃありません」
「そう、だな。だが、どうして独断専行した。規則を忘れたわけじゃないだろう」
「もちろん、ちゃんと覚えています。でも、あなたは討魔士としては半人前ですよね。なら、いてもいなくても関係ありません」
コウヤはすぐに言い返せなかった。自分の力不足は、自分自身が一番よく分かっている。
彼女は討専の同期だ。学生時代から、実力差は痛いほど身に染みている。
それでも、立場は同等だ。討魔士として、間違いは正す。
「俺が半人前だろうと、君が単独行動をしていい理由にはならない。どんな不測の事態にも対処できるよう……いや、この話はもういい。後処理をしよう。依形を解除してくれ」
「……」
「どうした。不満があるのは分かってる。でも今は職務を優先して——」
直後、俺は遠矢に突き飛ばされていた。
突然のことで、受け身を取る暇もなく、公園の硬い地面で尻もちをつく。
彼女が他人に対して、意味もなく暴力を振るうことはない。
何より、依形を覚醒させたまま人間に手を出すなんて、有り得ない。
思わず彼女の瞳を下から覗き込んだ。
それは、捕食者の目だった。
——約1時間前、対策班オフィス
「今回は遠矢と巡回任務に行くから、セレスタは待機だ。もし、俺達で対処できない問題が発生したら知らせる」
「それなら最初から三人で行動すればいいじゃん」
「二人一組が基本の討魔士が、三人で行動していたら市民が不審に思うだろ。何か事件でも起きたのか、って」
「はいはい世間体ね。まあ、普通の人魔なら二人でも平気でしょ」
セレスタと普段通りのやり取りを終えた俺は、任務の準備をする。
最後に依形の使用前点検を済ませてから、彼女と一緒にオフィスを出た。
この時から俺は、妙な胸騒ぎがしていた。
——そして今、予想は最悪の形で当たっていた。
「覚醒!おい、しっかりしろ遠矢!」
俺は迷わずに依形を目覚めさせ、暴走した彼女の攻撃を防ぐ。
構えた右腕の上から重い打撃を受け止めた。防御しているはずなのに、衝撃で脳が揺れる。
彼女の殴打の嵐は止まらない。俺は守るだけでいっぱいだった。
いや待て、おかしい。オーマは確かにその膂力も凄まじいが、本質はそこではない。
本当に俺を倒して捕食するつもりなら、熱エネルギーを利用するはず。
つまり、彼女は完全に人魔化しているわけではない。本能に抗っている状態だ。
問題は、それでも今の俺には彼女を止める力がないということだ。
せめて、緊急シグナルを他の対策班に送る時間があれば。
そんなことを考えながら防御に徹していたら、あいつの声が頭上から聞こえてきた。
大きく振りかぶった遠矢の拳を、地面に突き刺さったレイヴンの翼が受け止める。
「お弁当届けに来たら、とんでもないことになってるじゃん。公共の場で喧嘩は止めようよ」
「セレスタ!なんでここに……いや、早くこいつを止めてくれ!」
「もちろん。お昼前にちょっと軽く運動しようか」
緊急シグナルを送ってもいないのに、勝手に現場までやって来たセレスタに対して聞きたいことは山ほどあった。
しかし、今は何よりも、遠矢とオーマを切り離すのが最優先だ。




