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レイヴン ― 境界線上の者たち ―  作者: 徴《しるし》
異変の始まり(本編)

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8/28

危険な境界線

 レイヴンとオーマは真正面から向かい合い、互いの腕を掴み合っていた。

 レイヴンの細くしなやかな三本の腕と、オーマの剛腕の純粋な力比べだ。


 単純な数ではレイヴンが上のはずなのに、馬力が違い過ぎてセレスタの足が後退しそうになる。

 だが、力が拮抗している今しかチャンスはない。


「オーマってすっごい力持ちなんだね!僕の腕がミシミシ言ってる!」


「そのまま離すな!俺がやる!」



 俺は先ほどの防御でボロボロになっている量産型の右腕で、遠矢の腕にある依形を掴んだ。

 依形という障壁を超えて、灼熱が肌を少しずつ焦がす。


 痛みに顔が歪んでも、俺は絶対にこの手を離すつもりはなかった。

 これは本来なら俺が背負うべきリスクを、他人が背負った結果。


 感じる熱と痛みは、俺に対する戒めだ。



「この、クソ人魔……!ハルカから離れろぉ!」


 離れる気配が一向にないと分かれば、覚悟を決める。

 心身への負担を無視して、俺は依形の出力を最大まで上げた。


 そして、硬質な物体がひび割れる音が聞こえたかと思えば、依形オーマは遠矢の腕から離れた。

 どうやら、物理ロックを強引に破壊できたらしい。

 先程まで空気を圧迫していた熱が完全に霧散し、人の姿へ戻った遠矢が前のめりに倒れる。

 地面にぶつかる前に、セレスタがレイヴンの黒い羽毛でしっかりと受け止めた。


「っ、ぐっ……!あっ!くそっ……!」


「コウヤ!?大丈夫!?しっかりして!」


「……大丈夫だ。もう落ち着いた。連絡を済ませて帰るぞ。」


 無茶をした代償に、右腕の量産型から俺の人体へ、先程とは比べものにならない痛みが襲う。

 俺は軽く眩暈を起こし、制服の下で脂汗を流しながらも、セレスタを安心させようと平気な振りをした。


 暴走が初期段階で助かった。あれ以上、精神か肉体のどちらかが人魔側へ寄っていれば、依形を外しても人に戻せなくなっていただろう。


 俺とセレスタは依形を解除すると、リーダーへ連絡を入れ、救急車を呼んだ。



 現場では必要な連絡だけを済ませて、セレスタと二人で直接報告をしにオフィスへ戻った。

 何故か欠勤だったはずの宵宮先輩がいたが、何も聞かなかった。

 ハルカは、あの後最寄りの病院に搬送された。


「なるほど。それで、初期段階だったから強引に依形を外して、オーマの完全暴走を阻止したと」


「はい。今回は、その解決策しかその場では思いつきませんでした」


「……ふぅ。いや、よくやってくれたよ。今回の件は、精神的な予兆に気付けなかった、班長である私の責任ね。事後処理は私が済ませておくから、君たちは今日はもう帰りなさい」


「えっ?ですが——」


「帰りなさい。これは命令です」


「あのー、リーダー?アタシも帰っ——じょ、冗談ですやん?働くの楽しいなあ!」


 宵宮先輩が蛇に睨まれた蛙のように、デスクで小さくなっている。


 俺たちは釈然としない気持ちのまま、帰路に着いた。



「ねぇ、ハルカはどうなるのかな。僕がもうちょっと早く到着してれば……」


「お前は十分頑張ったさ。とりあえず依形は回収されて検品行きだろうな。討魔士に問題があったのか、依形に問題があったのか、それとも別の何かが原因か……」


 帰り道ではお互い暗い表情のまま一言も発さず、自宅に着くなりセレスタが問いかけてきた。

 答えた俺も、誰かに正解を言ってもらって安心したかった。

 依形には未知な部分が多い。そもそも、材料となる人魔についても人類は深く理解できていないのだから。



 討魔士は、常に人魔と人の境界線も行き来しているのだ。

 唯一の例外は、目の前のこいつぐらいだった。


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