非日常な戦闘
何事もなく一日が終わればいい。そう思っていた時こそ、トラブルというものは発生する。
それは、僕らの担当地区であるアーケード街、その路地裏を巡回していた時のことだった。
「コウヤ待って。携帯計測器に異常が出た」
「これから調査って時にか。運が悪い」
澱みの発生を知らせる緊急警報が通行人と僕たちのスマホから鳴り響き、みんな近くの避難所へ逃げていく。
僕は制服の胸ポケットに入れていた通信機で、対策班へ連絡を入れる。
「こちらセレスタ。巡回任務中に澱みの発生を確認。一般人の避難は既に完了。これより人魔を捜索、討伐します」
どうせ観測はとっくにされているし、緊急警報はさっき発令されたから口頭で報告する意味をあまり感じない。
でも、そういう規則だった。
連絡を入れた後、目標はすぐに見つかった。
大きな街路樹の頂上に、一本足で立つ、たくさんの瞳が体に埋め込まれた青い鳥だ。
僕たちは腕に装着している依形の安全装置を外し、安全のためにお互い距離を取る。
「あ、今回はすぐ見つかったね。周りに誰もいないし、最初から全力で行くよ」
「物的被害もちゃんと抑えてくれ。行くぞ」
「レイヴン」「覚醒」
僕たちの呼び掛けに応じて各々の依形が目覚める。
僕のレイヴンは、上半身を半人魔化する。
蛹が蝶になる過程を何十倍にも加速したような、急激な肉体の変化に、ほんの少しだけ眩暈がした。
何度やってもこの感覚は慣れないけど、変化が終わればすぐに眩暈は収まった。
隣のコウヤを見ると、右腕だけが鋭角な外骨格に覆われていた。
量産型の依形だから負荷は少ないはずだけど、コウヤの顔色は少しだけ悪かった。
普段一緒に暮らしている僕じゃないと気付かない、ほんの些細な違いだ。
「今回は、僕一人でやろうか?」
「戦闘には支障ない。やるぞ」
僕の翼から放った羽根の弾丸が、高いところからこちらを見下ろす人魔に吸い込まれて行った。
人魔は極限まで足を折り畳んで一気に伸ばすことで反動を利用し、ものすごい勢いで回転しながら飛び出した。当然、弾丸は当たらない。
「回避された。あの甲型、結構早いね」
「だが、翼の形状と今の回避行動からして、飛行自体は得意じゃなさそうだ。来るぞ」
人魔は勢いを殺すことなく、鋭い嘴をこちらに向けながら回転突進して来る。
狙いは当然だが、攻撃した僕だ。
僕とコウヤは視線を交わし、何も言わずに頷く。
「止まれぇ!」
コウヤが直前で僕の前に飛び出して、右腕を盾として構えた。
真正面から人魔の回転突進を受け止める。
金属同士が激しく擦れ合うような音が、火花と共に巻き起こった。
僕はその隙に跳躍し、コウヤの肩を足場にして更に高く跳んだ。
そのまま人魔の背後に回るよう空中で身を翻し、振り向き様に翼の剣で人魔を切り払った。
しかし、回転に阻まれて刃が弾かれる。
人魔は、そのまま斜め上に方向転換すると打ち上げロケットのように勢い良く飛んで行った。
「普通に飛ぶじゃん!」
「可能性の話だ!」
そのままビルの屋上付近まで行った人魔は、嘴を壁面に突き刺して、体を固定させた。
大きく広げた翼の内側には、何かを放出するための突起がいくつもあった。
体中の瞳が一斉にこちらを捉えて、紫色に発光するエネルギー体が翼の内側に集まっていく。
「コウヤ!」
「ああ!」
僕から翼の剣を受け取ったコウヤは短く息を吞み、思い切り助走を付けてから、人魔に向かって投擲した。
当然、それだけではあんな遠くまで届かない。少し依形側を操作する必要があった
体の一部を無理矢理延長させられる感覚はとにかく気持ち悪いが、今はそんなこと言っていられない。
僕は、依形を操作して感覚パスのロックを解除した。
直後、剣は物理法則を無視して不自然に加速し、壁面の人魔を真下から串刺しにした。
核を貫かれた人魔は、灰になって消えていく。
「よし!攻撃の発動前に倒せて良かったね」
「あの光線みたいなものを撃たれていたら、ちょっとまずかったかもな」
「あー、久々に遠隔接続したら気持ち悪くなった。直帰していい?」
「馬鹿言うな。まだ仕事は残ってる。今回は、今日中に報告書作れよ」
僕からしたら片手間でしかないこの討魔士の仕事も、コウヤからすれば命を懸ける使命だ。
今の短い戦闘だけでも、量産型を使った反動で辛そうに見える。
でも、コウヤは一度も弱音を吐いたことがない。
どうしてそんなに頑張れるのか。何故か、それだけは直接聞けなかった。




