日常の戦い
出勤日。今日は少し肌寒いので、制服の下は長袖のワイシャツだ。
いつも通り二人で、市営バスを利用して同じ職場に向かう。
月曜日の朝だからかバスはそれなりに混雑していて、僕は人の波に半分ほど埋もれていた。
こういう時に、背が低いと大変なんだよね。
職場に着くとタイムカードを押し、すでに出勤していたリーダーに挨拶をして、USBメモリに入った報告書データを持って行く。
リーダーは受け取ったデータを僕の目の前でチェックすると、黒縁眼鏡の奥をすっと細めた。
「これ、依形の稼働時間が、前回の報告書と全く同じなんだけど……コピペしたでしょ?」
「いや、だって、どうせ影響受けないしいいかなって」
「ダメ。すぐに書き直して。ちゃんと依形の戦闘ログから抽出してね」
僕は突き返されたUSBメモリを持って自分のデスクに戻り、PCの電源を入れる。
リーダーは、相変わらず細かいことを気にする。
「やっぱり再提出か。昨日の夜、慌てて書くからだ」
隣のデスクから、コウヤの嫌味が聞こえて来る。
コウヤが、リーダーから報告書を突き返されたことは確かに見たことがない。
「そもそも、非番の日に報告書を書かないといけないのおかしくない?労働なんとか方に違反してるよ」
「職務が終わったその日に書かないお前が悪い。仕事を家に持ち帰るな」
「出た正論パンチ。そんなんだからコウヤはモテないんだよ」
普段通りのやり取りをしながら、立ち上がったPCとレイヴンを端子で繋いだ。
戦闘ログを抽出するためだ。
たくさん並んだ数字に吐き気を覚えつつ、何とか先日の依形の稼働時間を探して、報告書に書き込んだ。
決まりでこのPCは家に持って帰れないから、悔しいけどコウヤの言うことは正しい。
「今日は朝から巡回任務だ。再提出したら、出る準備をしろ」
「はーい。あ、そう言えばハルカはまだ来てないの?いつも一番に来て、掃除してるのに」
「なんで俺に聞く。知らん。もうそろそろ来るんじゃないか」
僕たちが依形や携帯計測器、通信機などを準備していると、珍しく出勤時間ギリギリになってハルカがやって来た。
今日の寒さからは信じられないほど、全身汗だくになっている。本人の地毛らしい赤みがかった茶髪も、べったりと顔に貼り付いていた。
口紅も中途半端に溶け落ちており、鋭い眼差しも相まって鬼みたいだった。
「すみませんリーダー。交通事故で電車が止まったので、走って来ました」
「お、おぉ……そうか。連絡してくれたらちゃんと処理できたのに。対策班はブラックじゃないぞ?」
「いえ、全力疾走すれば間に合うと自分で判断したので。何も問題ありません」
二人の会話を遠くで聞いていた僕たちだったが、ハルカから殺意にも似た視線を向けられた。
慌ててリーダーに報告書データを再提出し、巡回任務に出る旨を伝えてすぐに外に出た。
「あー怖かった。いつもより数倍怖かったよ。僕、人魔よりもハルカの方が正直怖い」
「遠矢は真面目なだけだ。どこかの誰かさんと違ってな」
「でも、敵視されてるの主にコウヤでしょ?相棒の僕は完全にとばっちりだよね」
コウヤは僕の問いに答えられず、第五対策班のオフィスを一度振り返って、軽く溜息をついた。




