混ざりもの
僕の腕から離れたレイヴンが、ゴトンと音を立てて地面に転がる。
依形がなくなったことで、当然のように僕は『人の姿』へ戻った。
コウヤの方にもう一度視線を向けると、うつ伏せのまま意識を失っていた。
待っててね。こいつを倒して、安全なところに連れて行くから。
セレスタという名前は、コウヤが付けてくれた。確か、遠い異国の地から取った名前だったはず。
これは、僕が人らしくあるための、大切な名前。
でも、今だけは、人らしさを忘れよう。
「はぁ……何をするかと期待してみれば。命乞いはノーセンキュー!もういい、まとめて俺様の前から消えろ」
人間に戻った僕を見て呆れたビックバンは、腕を大きく広げてトサカを震わせ始めた。
光がトサカへ一点に集まっていく。僕はそれに対して、身動き一つ取らない。
次の瞬間、殺意の込もった光線が僕たちに向かって放たれ、閃光と灼熱が、辺り一帯を包み込んだ。
しかし、それらは全て、一時的にゼリー状になった僕の体へと誘導され、吸い込まれた。
スポンジが水を吸うように、あっという間だった。
見下していた存在の、理解を超えた挙動に、ビックバンは初めて動揺した。
「……そ、その力はなんだ!?俺様が生まれ持った記憶に、そんなものはないぞ!!」
「僕も分からないよ。どの人魔の能力なのか」
そもそも、今のは僕の意思じゃない。
僕の肉体にある、数多くの残滓の一つが反応しただけだ。
もちろん、どれかが勝手に働いてくれると思ってはいた。宿主が死んだら困るもんね。
問題は、あの頃受けた実験の詳細が、ほとんど記憶から消えていることだ。
すごく痛くて、苦しかったことしか覚えていない。まだ子供だったし、仕方ないと思う。
だから、手探りでこの強敵と戦うしかない。
「さて、しばらく試運転に付き合ってね」
「ふっ、ふふふ……ブラボーブラボー。この超新星ビックバン様より目立とうとする、そのセンス!実に面白い!」
僕の言葉に、ビックバンは苛立ちを隠そうともしなかった。
異形同士の戦いが始まった。
ビックバンが羽衣状の腕を振るい、光の刃を飛ばす。
僕が腕を突き出すと赤い鱗が皮膚に浮かび上がり、隙間から放出された灼熱が、刃を焼き消した。
今度は頭上から、光の柱が降り注ぐ。背中から尾びれが砲塔のように生えて、一気に噴き出た水流で攻撃の勢いを殺す。
その隙に僕は横へ跳んだ。
どこか見覚えのある能力たちだ。見知ったものは、表面化しやすいのかもしれない。
反撃しようと、普段レイヴンを使う時みたいに、自分の体へ意識を向けるが上手くいかない。
体の延長線上を動かす感覚と、体の内部を動かす感覚では全然違う。
このままじゃビックバンに有効打を与えられない。時間がないのに、もどかしい。
もっと、本能を呼び起こすんだ。今の僕は人間じゃない。混ざりものの怪物だ。
もっと強く、もっと多くの力を使わないと!
そのためには、エネルギーがいる。つまり、食事。
倒れているコウヤの姿が、視界の端に映る。白いうなじが微かに見えた。
今の僕に必要なのは、あれだ。
違う、守らなきゃ。でも、守るためには力が必要で。
「ちっ……あっちも面倒な相手に絡まれたか。タイムリミットのようだ。人間擬き《もどき》、次に会った時こそジャッジメントしてやろう」
何かに呼ばれたように、東の空を鋭く睨んだビックバンは、捨て台詞と共に戦場を離れていった。
僕に、それを追いかける余裕はなかった。
肉体に宿る人魔たちの力を使った反動か、本能が抑えきれない。
ふらりと体が本能に従って、一番近くにいる人間へ引き寄せられる。
手が、コウヤの体へと伸びた。




