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レイヴン ― 境界線上の者たち ―  作者: 徴《しるし》
災禍

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22/29

帰る場所

 僕は伸ばした手を、もう片方の手で掴んだ。本能と理性が、ぶつかり合う。

 飢えを満たせ、喰らい尽くせ。頭の中でそんな声が反響する。

 やめろ、やめてくれ。誰か、僕を止めて。息の根を止めてもいいから。

 お願いだから、僕を僕のままでいさせて。



 そんな願いが通じたのか、意識を失っていたコウヤが咳き込み、ゆっくりと体を起こした。

 周囲に目を凝らし、地面に転がっているレイヴンを拾うと、迷わず僕に近寄ってくる。

 僕はついに我慢できなくなって、コウヤの肩に嚙みついてしまった。


 半人魔化の影響で鋭くなった犬歯が、コウヤの筋肉質な肩に突き刺さる。


「大丈夫だ。俺が生きている限り、絶対にお前を化け物なんかにさせない」


 コウヤは痛みに顔をしかめながらも、僕の腕にレイヴンを装着し直した。

 そして、例のアンプルを取り出すと中身をレイヴン越しに注入していく。


 薬が僕の理性を引き戻し、自然と口がコウヤの肩から離れた。

 唇から垂れた鮮血と、勝手に溢れる涙が地面に滴り落ちた。


「あ、あの……僕、コウヤを助けたくてそれで……!約束破ってごめんなさい。こんなことして、ごめんなさい」


「分かってる。全部、分かってるから泣くな。この怪我は、今回の戦闘が原因だ。他の人間にはそう話せ。いいな?」


 僕は頑張って泣き止むと、コウヤの言葉に何度も頷いた。



「おい二人とも無事か!?戦況はどうなってる!?さっき、そっちの地区が光って、甲型どもがほとんど消えたけど何があった!」


 電波障害が復旧したのか、通信機からアカネの焦った声が聞こえてきた。

 コウヤが僕の方を見て、目で語りかけてくる。「何も言うな」と。


「セレスタは無事ですが、俺は少し右肩を負傷しました。戦況を報告します。A-4地区にて蛹と遭遇。破壊を試みましたが間に合わず、丙型人魔が誕生。二人で交戦した後、対象は戦闘区域から離脱しました。……それと、避難所が一つ、被害に遭いました」


 アカネに報告している最中、西にある丘陵地の惨状に気付いたコウヤは、目を見開いて唇を噛んだ。

 きっと、自分のことを責めているに違いない。コウヤは何も悪くないのに。


「っ……コウヤはさっさと救護班の世話になれ。セレスタはA-3地区でアタシたちと合流しろ。市街地に残る甲型を、全部排除するぞ」


「了解。すぐ、そちらに向かわせます……というわけだ。先輩たちに、余計なことは話すなよ。それと、ちゃんと口元を洗え」


 別れ際、どれだけ僕が心配なのか、改めて釘を刺された。

 心配しすぎな気もするけど、コウヤの考えも分かる。

 僕が、人間を傷付けたことが討魔局に知られたら、また研究所に逆戻りだから。




 それから、僕は命令通りアカネたちと合流し、市街地に隠れ潜む甲型の残党たちを狩っていく。

 二人とも心身ともに疲れ切っていたので、僕が遊撃に回って、積極的に人魔を探す。

 今は、何も考えずに戦えることが大事だった。


 朝焼けが街並みを染め上げる頃、ようやく澱みが晴れた。

 市街地から、完全に人魔がいなくなったのだ。

 三人で、噴水が止まった公園のベンチに力なく座り込んだ。

 さすがの僕も、戦闘続きで満身創痍だった。


「ったく、いつもはすぐ襲い掛かってくる癖に、今日に限って逃げ隠れしやがって」


「そうですね。復帰したての体には、なかなか堪えました……」



 二人の愚痴に耳を傾けて休んでいると、通信機からリーダーの声がした。


「全員、帰還して。討魔局本部から、重大発表よ」

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