力の差
僕が初めてこの街にやってきたのは、5年ぐらい前。
コウヤにあの研究所から連れ出されて、「ここからお前が住む土地だ」と案内された。
その時はちょうど火山灰が降っていて、髪がギシギシして嫌だった記憶がある。
火山と温泉が有名な街って言われても、その時は何がいいのかさっぱり理解できなかった。
灰が降るとほんのり硫黄臭がして、雨の後にはアスファルトの匂いが混じって不快感が増す。
温泉も、他人の前で裸になるのは嫌だから一度も行ってない。
ご飯は美味しいけど。
あんまり人と関わるのは嫌だったから、外出は最低限しかしなかった。
それでも、この街の人たちがお人好しなのはすぐ分かった。
具体的にどこが、と聞かれると難しい。強いて言えば、優しさが押し付けがましくない、かな。
他人に親切にすることを、特別だと思っていない人が多かった。
困っている人がいたら、自然と助ける空気が形成されていた。
もちろん、たまには嫌な人もいるけど。
それから、お酒好きが多くて、お酒が入ると面倒な人が多い。誰かさんみたいにね。
だから、討魔士という仕事を提案された時はあんまり迷わなかった。
レイヴンを活躍させる場も欲しかったし、討魔局の監視はどっちにしろある。
コウヤはケチだから、あんまりお小遣いくれないし。
めんどくさい書類仕事は今でもすごく嫌いだけど、この街は嫌いじゃなかったから。
そんな、見知った風景と街の人たちを傷つけられた怒りを力に変えて、嘴に集中させる。
おかしい。レイヴンの出力を最大まで上げているのに、びくともしない。
人差し指一本で、僕の全力が止められている。
「よくも……よくも!」
「どうしてそんなに怒る。人間は、生きていても辛いことばかりなのだろう?私の光で浄化されて、良かったではないか」
「違う!お前が勝手に決めるな!」
一度体勢を立て直すため、頭部の半人魔化を一時的に解除して、膠着状態から抜け出し地上へ降りた。
敵が空中にいるせいで、さっきみたいな単純な攻撃しかできない。
ここは、コウヤに相談して作戦を立てるべきだ。
僕以上に、僕のことを知っているコウヤなら、きっといい案を思いつく。
大丈夫。どんな人魔だって、いつもコウヤと二人で倒してきた。
「コウヤ!何か、いい作戦があったら、教え——コウヤ!?」
コウヤは、血を吐いて地面に倒れていた。うつ伏せだから横顔しか見えないけど、どう見ても危険な状態だ。
なんで?いつの間にか攻撃された?いや、外傷は見当たらない。
少し考えたら分かった。
連続稼働時間。僕は、自分が何ともないからって、そのことを忘れてしまっていた。
普通、依形はこんな長時間の使用を想定していない。
依形への適性が低いコウヤなら、こうなってもおかしくないのに。僕は馬鹿だ。
「俺を置いて、に、げろ……。」
コウヤは意識を朦朧とさせながら、僕のことを心配して逃がそうとしていた。
自分の愚かさを恨む暇なんてなかった。
急いでコウヤの依形の、物理ロックを破壊して、右腕の半人魔化を解除させる。
本当は今すぐにでも救護班のところへ連れていってあげたいが、それはできない。
もう、二人がこの場面を切り抜けるには、これしかない。
未だにこちらを見下ろしているビックバンを、憎しみと決意を込めた目で睨み付ける。
「おや。一人、戦線離脱かね。人間というのは脆弱だねぇ。」
「うるさい。……ごめんコウヤ。約束、破るね」
僕は自分の腕にある依形レイヴンを、外した。




