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レイヴン ― 境界線上の者たち ―  作者: 徴《しるし》
災禍

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20/29

力の差

 僕が初めてこの街にやってきたのは、5年ぐらい前。

 コウヤにあの研究所から連れ出されて、「ここからお前が住む土地だ」と案内された。

 その時はちょうど火山灰が降っていて、髪がギシギシして嫌だった記憶がある。


 火山と温泉が有名な街って言われても、その時は何がいいのかさっぱり理解できなかった。

 灰が降るとほんのり硫黄臭がして、雨の後にはアスファルトの匂いが混じって不快感が増す。

 温泉も、他人の前で裸になるのは嫌だから一度も行ってない。

 ご飯は美味しいけど。


 あんまり人と関わるのは嫌だったから、外出は最低限しかしなかった。

 それでも、この街の人たちがお人好しなのはすぐ分かった。

 具体的にどこが、と聞かれると難しい。強いて言えば、優しさが押し付けがましくない、かな。

 他人に親切にすることを、特別だと思っていない人が多かった。


 困っている人がいたら、自然と助ける空気が形成されていた。

 もちろん、たまには嫌な人もいるけど。

 それから、お酒好きが多くて、お酒が入ると面倒な人が多い。誰かさんみたいにね。



 だから、討魔士という仕事を提案された時はあんまり迷わなかった。

 レイヴンを活躍させる場も欲しかったし、討魔局の監視はどっちにしろある。

 コウヤはケチだから、あんまりお小遣いくれないし。

 めんどくさい書類仕事は今でもすごく嫌いだけど、この街は嫌いじゃなかったから。




 そんな、見知った風景と街の人たちを傷つけられた怒りを力に変えて、嘴に集中させる。

 おかしい。レイヴンの出力を最大まで上げているのに、びくともしない。

 人差し指一本で、僕の全力が止められている。


「よくも……よくも!」


「どうしてそんなに怒る。人間は、生きていても辛いことばかりなのだろう?私の光で浄化されて、良かったではないか」


「違う!お前が勝手に決めるな!」


 一度体勢を立て直すため、頭部の半人魔化を一時的に解除して、膠着《こうちゃく》状態から抜け出し地上へ降りた。

 敵が空中にいるせいで、さっきみたいな単純な攻撃しかできない。

 ここは、コウヤに相談して作戦を立てるべきだ。

 僕以上に、僕のことを知っているコウヤなら、きっといい案を思いつく。


 大丈夫。どんな人魔だって、いつもコウヤと二人で倒してきた。


「コウヤ!何か、いい作戦があったら、教え——コウヤ!?」


 コウヤは、血を吐いて地面に倒れていた。うつ伏せだから横顔しか見えないけど、どう見ても危険な状態だ。

 なんで?いつの間にか攻撃された?いや、外傷は見当たらない。

 少し考えたら分かった。

 連続稼働時間。僕は、自分が何ともないからって、そのことを忘れてしまっていた。

 普通、依形はこんな長時間の使用を想定していない。

 依形への適性が低いコウヤなら、こうなってもおかしくないのに。僕は馬鹿だ。


「俺を置いて、に、げろ……。」


 コウヤは意識を朦朧とさせながら、僕のことを心配して逃がそうとしていた。

 自分の愚かさを恨む暇なんてなかった。

 急いでコウヤの依形の、物理ロックを破壊して、右腕の半人魔化を解除させる。

 本当は今すぐにでも救護班のところへ連れていってあげたいが、それはできない。



 もう、二人がこの場面を切り抜けるには、これしかない。

 未だにこちらを見下ろしているビックバンを、憎しみと決意を込めた目で睨み付ける。


「おや。一人、戦線離脱かね。人間というのは脆弱だねぇ。」


「うるさい。……ごめんコウヤ。約束、破るね」



 僕は自分の腕にある依形レイヴンを、外した。


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