丙型人魔
市街地から西に離れた丘陵地に、緊急で設置された仮の避難所があった
時刻は夜の7時。
12月下旬の容赦ない寒さが、市民たちに牙を剥く。
そんな中、支給された毛布を頼りに、寒さに耐える一組の親子がいた。
「ねぇママ。いつになったらおうちに帰れる?」
「……もう少し我慢してね。きっとすぐおうちに帰れるから」
「うん……あっ、ママみて!あそこ、すっごく光ってる!クリスマスツリーかな!?」
子供が指差した先は、地元で有名な商業施設跡地だった。
蛹から放たれた光と熱風が、僕たちに叩き付けられた。
お互いに手にしていた剣を突き立て、目を閉じて踏ん張った。
次に目を開けた時、蛹は姿を消していた。
状況を把握するため、通信機に直接耳を当てる。ダメだ。電波に異常があって、何も聞こえない。
「セレスタ!上だ!」
コウヤの声で反射的に空を見上げると、そいつは宙に浮かび、こちらをじっと見下ろしていた。
基本的な体のパーツは、人間と同じ。
大きさは、人間より一回り大きい程度。北の遠い国にいる熊と同じぐらいだろうか。
羽衣のように腕から伸びた肉塊が、だらりと垂れ下がっているせいで巨大に見える。
頭部は赤いトサカのある鳥にそっくりで、そこだけ妙に浮いていた。
それなりに距離があるのに、鼻が曲がりそうな腐臭がここまで届いた。
正直、生理的な気持ち悪さは感じるけど、大災害を引き起こす存在には見えない。
甲型でも、あんな形態の人魔はたまに見かける。
「これが、丙型人魔……?」
僕の呟きを聞き取ったそいつが答えた。視線がこちらへ突き刺さる。
「ノー!ノーノー!そいつはナンセンスだ!俺様を、あんな本能に支配された獣どもと同じカテゴリーに入れないでくれ。そう、俺様はズバリ……ふむ、どんな名称が俺様に相応しいか、悩むな」
僕とコウヤは顔を見合わせて、これからどうするかを小声で相談する。
電波障害が収まって、通信機が使えるようになるまでは、とにかく時間を稼ぎたかった。
「できるだけ向こうの話に付き合おう。無理はするな」
「分かった。僕が話してみるよ。……あのー、あなたのことは、なんてお呼びしたらいいですか?」
「そうだな……俺様のことは、超新星ビックバン様と呼ぶがいい」
僕はそんなに頭がいい方ではないけれど、すごく頭の悪そうな名前だっていうのは、直感で分かった。
いや、見た目と中身で判断してはいけない。みんなが警戒する、丙型人魔であることに変わりはないのだから。
機嫌を損ねないように気を付けながら、探りを入れていく。
「ビックバン様は、僕たちの敵なんですか……?人間に危害を加えるつもりがあるのかどうか、教えてください」
「超新星ビックバン様だ。省略するな。もう一度やり直せ」
「……超新星ビックバン様は、僕たち人間に酷いことをしませんか?」
「答えは、ノーだ。新しい朝を告げる一撃を、特等席で見せてあげよう」
ビックバンの視線が、丘陵地にある仮設避難所へと向いた。
「っ!止めろセレスタ!何としてでも!」
僕はコウヤの叫びとほぼ同時に動き出していた。
レイヴンの出力を限界まであげて、下半身を鴉の脚に変化させた。腕とは違い、こちらは二本しかない。
以前戦った、青い鳥の甲型を真似て、極限まで足を折り畳んで一気に伸ばすことで反動を利用した。
ビックバンに向かって、ものすごい勢いで真っ直ぐ飛んでいく。
でも、僕の体が届く前に、攻撃は発動されてしまった。
親切な予兆なんて存在しない。ビックバンの腕から放出された光の束が、丘陵地へ一斉に吸い込まれていく。
爆発と炎上が巻き起こり、避難所は地形ごと吹き飛んだ。
焦げた臭いが、風に乗って流れてくる。
「ビューティーフォー!!見たかね。素晴らしい一撃だったろう。おや、どうした?怖い顔をして」
突進してきた僕の嘴を人差し指だけで受け止めながら、そいつは不敵に笑った。




