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レイヴン ― 境界線上の者たち ―  作者: 徴《しるし》
災禍

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19/29

丙型人魔

 市街地から西に離れた丘陵地《きゅうりょうち》に、緊急で設置された仮の避難所があった

 時刻は夜の7時。

 12月下旬の容赦ない寒さが、市民たちに牙を剥く。

 そんな中、支給された毛布を頼りに、寒さに耐える一組の親子がいた。


「ねぇママ。いつになったらおうちに帰れる?」


「……もう少し我慢してね。きっとすぐおうちに帰れるから」


「うん……あっ、ママみて!あそこ、すっごく光ってる!クリスマスツリーかな!?」


 子供が指差した先は、地元で有名な商業施設跡地だった。




 蛹から放たれた光と熱風が、僕たちに叩き付けられた。

 お互いに手にしていた剣を突き立て、目を閉じて踏ん張った。

 次に目を開けた時、蛹は姿を消していた。


 状況を把握するため、通信機に直接耳を当てる。ダメだ。電波に異常があって、何も聞こえない。


「セレスタ!上だ!」


 コウヤの声で反射的に空を見上げると、そいつは宙に浮かび、こちらをじっと見下ろしていた。

 基本的な体のパーツは、人間と同じ。

 大きさは、人間より一回り大きい程度。北の遠い国にいる熊と同じぐらいだろうか。

 羽衣のように腕から伸びた肉塊が、だらりと垂れ下がっているせいで巨大に見える。


 頭部は赤いトサカのある鳥にそっくりで、そこだけ妙に浮いていた。

 それなりに距離があるのに、鼻が曲がりそうな腐臭がここまで届いた。


 正直、生理的な気持ち悪さは感じるけど、大災害を引き起こす存在には見えない。

 甲型でも、あんな形態の人魔はたまに見かける。


「これが、丙型人魔……?」


 僕の呟きを聞き取ったそいつが答えた。視線がこちらへ突き刺さる。


「ノー!ノーノー!そいつはナンセンスだ!俺様を、あんな本能に支配された獣どもと同じカテゴリーに入れないでくれ。そう、俺様はズバリ……ふむ、どんな名称が俺様に相応しいか、悩むな」


 僕とコウヤは顔を見合わせて、これからどうするかを小声で相談する。

 電波障害が収まって、通信機が使えるようになるまでは、とにかく時間を稼ぎたかった。


「できるだけ向こうの話に付き合おう。無理はするな」


「分かった。僕が話してみるよ。……あのー、あなたのことは、なんてお呼びしたらいいですか?」


「そうだな……俺様のことは、超新星ビックバン様と呼ぶがいい」


 僕はそんなに頭がいい方ではないけれど、すごく頭の悪そうな名前だっていうのは、直感で分かった。

 いや、見た目と中身で判断してはいけない。みんなが警戒する、丙型人魔であることに変わりはないのだから。

 機嫌を損ねないように気を付けながら、探りを入れていく。



「ビックバン様は、僕たちの敵なんですか……?人間に危害を加えるつもりがあるのかどうか、教えてください」


「超新星ビックバン様だ。省略するな。もう一度やり直せ」


「……超新星ビックバン様は、僕たち人間に酷いことをしませんか?」


「答えは、ノーだ。新しい朝を告げる一撃を、特等席で見せてあげよう」


 ビックバンの視線が、丘陵地にある仮設避難所へと向いた。


「っ!止めろセレスタ!何としてでも!」


 僕はコウヤの叫びとほぼ同時に動き出していた。

 レイヴンの出力を限界まであげて、下半身を鴉の脚に変化させた。腕とは違い、こちらは二本しかない。

 以前戦った、青い鳥の甲型を真似て、極限まで足を折り畳んで一気に伸ばすことで反動を利用した。

 ビックバンに向かって、ものすごい勢いで真っ直ぐ飛んでいく。




 でも、僕の体が届く前に、攻撃は発動されてしまった。

 親切な予兆なんて存在しない。ビックバンの腕から放出された光の束が、丘陵地へ一斉に吸い込まれていく。

 爆発と炎上が巻き起こり、避難所は地形ごと吹き飛んだ。

 焦げた臭いが、風に乗って流れてくる。


「ビューティーフォー!!見たかね。素晴らしい一撃だったろう。おや、どうした?怖い顔をして」


 突進してきた僕の嘴を人差し指だけで受け止めながら、そいつは不敵に笑った。


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