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レイヴン ― 境界線上の者たち ―  作者: 徴《しるし》
災禍

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黒い蛹

「慌てず騒がず、係員の指示に従って行動してください!」


 鳴り止まない警報音を背景に、市内では一般市民の避難誘導が行われていた。普段の澱みとは違い、かなり広い範囲に及んでいる。

 当然、討魔局だけでは手が足りない。警察、消防や各自治体なども協力し、澱みの範囲内に入った都市から住民を避難させる。


 そして、澱みの震源地では、討魔士たちが命懸けで戦っていた。




「こちら第四対策班!C-6地区には蛹《さなぎ》の反応なし!C-7地区に移動する!」


「第三対策班、新人がやられた。D-3の第二対策班と合流し、編成を整える」


 僕たちは、あの後すぐに対策班オフィスへ装備を取りに戻り、市街地を駆け抜けていた。

 路面電車、車、歩行者が全て消えた道路は、普段よりもずっと広く感じる。

 いつもローカルCMが流れている大型の街頭モニターも、今は真っ暗だ。


 押し寄せる大量の甲型たちと戦いながら、通信機から流れる戦況に耳を傾ける。

 討魔局からの緊急通信は、今のところない。幸い、丙型人魔はまだ生まれていないらしい。

 ただ、こうしている間にも、討魔士たちはどんどん消耗していく。


 アカネが、カイジンの蹄で近くの小さな甲型を踏み潰し、尾びれから射出した水で飛行するタイプを撃ち落とした。

 それでも、甲型たちの勢いは全然止まる気配がない。進行を食い止めなければ、市民たちに甚大な被害が出る。


 しかし、蛹を発見して丙型人魔の誕生を阻止しなければ、最悪この都市を放棄することになる。


「ダメだ。埒が明かねぇ!おい、二人はさっさとA-4地区へ行け!蛹が羽化したら終わりだ!ここはアタシとハルカで何とかする」


「先輩、一度依形を解除して下がってください!連続稼働時間が限界に達しています。私が前に出ますから」


「了解。ここは任せます。また後で。行くぞセレスタ」


 コウヤと一緒にアカネたちの背を見送り、その場を離れる。

 さっきの通信内容を思い出して少し心配になったけど、あの二人ならきっと大丈夫、だよね。




 辿り着いたA-4地区、水族館近くの商業施設跡地に、目標の蛹は鎮座していた。

 湾岸部に隣接するここは、地元では有名な心霊スポットで、普段は誰も近づかないような場所だった。

 僕とコウヤは依形の調子を確認して、周囲を警戒しながら蛹に近づく。


 ちょっと大きめな自動車ぐらいの黒い蛹が、ドクンドクンと目の前で脈動している。

 支えになるものが何もないのに直立不動で、すごく不気味だ。


「これ、普通に攻撃していいんだよね?」


「ああ、頼む。俺の量産型じゃ、恐らく破壊力が足りない。急いでくれ」


「分かった。レイヴン」


 必要最低限の会話を挟み、僕はレイヴンを発動させると、上半身を半人魔化させた。

 普段と違って、半人魔化の速度が何故か早い。でも、今は好都合だ。

 三本の腕を上手く使って両翼を引き抜き、それぞれ剣として片手に持つ。


 そのまま蛹の正面に立つと、力任せに剣を思い切り叩きつけた。

 しかし、刃が一部欠けただけで、蛹は一切傷付いた様子がない。

 今まで多くの人魔を倒してきた、自慢の剣なのに。


「そいつを貸せ!俺がやる!」


 初めての事態に戸惑っていると、コウヤが自分の依形を発動させて、僕の手から剣を一つ奪った。

 突く、斬る。叩く。どんな攻撃をしようと、蛹はびくともしない。

 僕もコウヤと一緒に、攻撃を続ける。お願い、早く壊れて。



 そんな健闘も虚しく、タイムリミットが遂に来てしまった。

 いつの間にか、蛹の脈動が異様なほど速くなり、内部から衝撃と熱を感じた。

 丙型人魔が、生まれる。

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